ベトナム特集/目指せチャイナプラスワン
2007年12月13日 (木曜日)
アジアでは中国に次ぐ高度経済成長を続けるベトナム。1986年に刷新「ドイモイ」政策を採択して以降、社会主義体制を維持しつつも市場経済化を目指し、改革路線を歩む。97年のアジア通貨危機によっていったんは終息した「ベトナムブーム」だが、再び8%以上の高い成長率を保ちつつ、着々とチャイナプラスワンの地位を狙う。今年は世界貿易機関(WTO)に加盟。一段と高い経済成長率が望めるベトナムにスポットを当てる。
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ベトナムの90年代の平均経済成長率は7・4%、2001~05年も7・6%と、市場経済化路線が持続的成長を生み出している。WTOへの正式加盟、対米輸出増、海外からの投資拡大などの追い風によって、さらに経済成長が加速する可能性を秘める。
先月25~29日にベトナムのグエン・ミン・チェット国家主席が来日、日本企業に対してベトナムへの積極的な投資を求めた。福田康夫首相とも会談し、ベトナム南北を縦断する新幹線・高速道路の建設構想、ホアラック・ハイテクパークへの投資促進の3大案件などを進めることで合意。今後ますます関係を深める日越関係にあって、ベトナム進出のチャンスは大きい。
カケン/KVLに駐在員派遣
KOTITI(韓国繊維技術研究所)のベトナム試験室(略称KVL)が05年8月に開設された。日本化学繊維検査協会(カケン)は、このKOTITIと韓国で業務提携しており、KVLにもカケンの駐在員を派遣(常駐)、日本向け試験の経験のあるKOTITIスタッフとともに、日本国内同様のサービスが行える体制を整えている。
KVLの住所はLot K,RoadNo.2,Song Than Industrial Zone , Di An District,Binh Duong Vietnam。ホーチミン市から車で30~40分のビンズン省ソンタン工業団地内にある。
KVL開設の目的は、世界の繊維貿易の完全自由化に対応するとともに、成長・発展の潜在力の高いアセアン地区に拠点を確保するため。貿易の自由化に伴うアセアン域内、その一つであるベトナムの成長性を見込んだものだ。
我が国もアセアンとのEPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)を進める。ベトナムとは05年に首相レベルで二国間EPAに関する共同検討会合を開始することで合意。今年1月から交渉を開始している。
ここでは、アセアンにおいてインドネシアについで人口が多いという市場性、高い経済成長率、さらにチャイナプラスワンの候補地として、ベトナムをとらえている。日本のベトナムからの輸入額は、繊維類が16%を占めており、繊維業界としても、今後の取り組み先として注目しているところだ。
「ベトナムは素材が少ないため、縫製が中心になる。現在、スポーツ衣料が多い。現地では製品や素材の品質試験、検査・検品業務をKVLが行っている」(カケン)とし、駐在員派遣も将来への布石と位置づける。
三井物産インターファッション/レディース生産拡大へ
三井物産インターファッション(MIF)は、メンズとスポーツの生産を拡大するとともに、レディース展開も視野に入れたベトナム生産に注力する。
同社のベトナム生産は、ホーチミンやハノイ近郊の10工場を中心に取り組み強化を進めている。メンズのスーツ生産では1フロアを借り切り、強力な生産体制を確立。委託生産がメーンのスポーツは今後、アスレチックやアウトドア用など、アイテムの拡大を計画する。
また同社はこのほど、社内に「ベトナム推進委員会」を発足。とくにレディースでは「日系企業と香港企業の活用によるベトナム生産のアライアンスを強化したい」(東山三樹雄常務・常務執行役員営業統括本部長)として、主にニット生産の拡大を狙う。
また先行するメンズ、スポーツでは「ベトナムの先」を検討。「先の一手を考えながら進めていきたい」(東山常務)とし、カンボジアやミャンマー、ラオスを見据えた生産体制の確立を目指す。
丸紅/WSG基盤に生産拡大
丸紅は、「ワンダフル・サイゴン・ガーメント」(WSG)を基盤に、ユニフォームとシャツのベトナム生産を推進する。
丸紅の繊維部門全体としては、中国が圧倒的な生産量を占めている。しかし、中国でのコストアップ要因などを背景に「ベトナムの重要性は変わることはない」(岩松正剛機能アパレル部副部長)と指摘、WSGを中心に、ホーチミンやダナンなど各工場に日本人技術者を派遣し、日本向けに高品質な商品を供給する。
WSGは1996年に設立。丸紅が51%、作業服製造卸のサンエスが49%出資する。勤勉なベトナム人の労働力と高い技術力を背景に、近年では米国向けカジュアルパンツ生産を軌道に乗せるなど、三国向けも順調に拡大している。ユニフォーム向けはワーキングや白衣が現在の主力だが、今後は「サービス分野の生産も行いたい」(岩松副部長)とし、ベトナム生産の拡大に意欲を示す。
東レACS/サポートセンターを開設
東レACSは20日、ベトナム・ホーチミンにサポートセンターを開設する。現地の協力会社である日系IT企業のマンキチ・コンピューター内に設け、東レACSの代理店という形で展開する。
同社CADシステム「クレアコンポ」のユーザーは、2000年ごろからベトナムに進出し始め、現地でもクレアコンポを採用。日系の縫製工場や商社系を主体に顧客を2ケタ台に拡大している。これまでは修理やメンテナンスのたびに、日本からサポートしてきた。今回のサポートセンター開設により、現地に部品を在庫し、パターン出力サービスなどのフォローをしていく。
提携するマンキチ・コンピューターは、ベトナムに進出している幅広い業種の日系企業を対象に、主に経理・会計ソフトを提供している。その中に東レACSの顧客もいることから連携しサポートセンター開設に至った。ベトナムでは、外資系IT企業は税制面などで優遇されている。両社の強みを生かしてビジネス拡大を図る考えだ。東レACSの現地駐在員は置かず、必要に応じて社員を派遣する。
来年4月にホーチミンで開かれる、ファッション関連機器の展示会に出展する予定。現地での新規販売は同展以降に推進していく考え。来春4月から年内は、毎月1件程度の新規顧客獲得を目指す。
また現在、中国の代理店経由で対応しているカンボジア市場へも、将来的にはすでに同国とのつながりが深いマンキチ・コンピューターを通して、販売・サポートを進めていく方向だ。
NI帝人商事/グローバル化の最重要拠点
NI帝人商事は、グローバル化への対応を衣料繊維事業の重点課題の一つに掲げる。ボーダーレス化が進む繊維産業で、同社にとってベトナムは適地生産、適地販売を深めていくための最重要拠点の一つだ。
従来から高く評価されてきた国内向け重衣料などの生産拠点としてばかりでなく、グループ会社のファッションフォースNO・1ファクトリーを核とした欧米向け製品事業が着実に広がっている。9月にベトナム、カンボジアの2カ国を訪問した森田順二社長も、「労働者が勤勉」とベトナム生産を評価、今後の積極的な海外展開に向けてベトナム生産を一段と活用する。
スミテックス・インターナショナル/生産管理強化が奏功
スミテックス・インターナショナルのベトナム生産拠点「サミット・ガーメント・サイゴン」(SGS)が順調に拡大している。今期に入り、人員を800人から1400人へ拡大。取引先からのオーダーが相次ぎ、「少なくとも2200人までは拡大する方針」(長尾孝彦社長)で、取り組み先から「商品の顔の良さ」が評価されている。
SGSの特徴は、生産管理体制の強化に注力する点だ。「職人気質」の日本人スタッフが常駐し、納期の順守と品質の向上を追求。「この技術のプロたちの仕事が製品に安心感を与えている」(長尾社長)と評価する。
取引先は、大手百貨店向けアパレルや東京のセレクトショップ。メンズを中心に中・高級品ゾーンにターゲットを絞り、付加価値品の生産に注力し、客先の要望に素早く対応する。
野村貿易/新工場は来年2月操業
カントー、ハイフォンでワーキングユニフォームの生産を行う野村貿易は、タンホアに新工場を建設中で、来年2月から操業する予定だ。ここ数年、ベトナムでの生産量が増え、既存工場だけではスペースが不足していることから新工場の設立に至った。
現地ではすでに、従業員の研修をスタートさせており、当初は従業員500人、月産5万枚(ワーキングユニフォーム)の規模で稼働させるが、将来はさらに生産規模を拡大させる。
また、旺盛な需要を背景に、将来的には既存工場の設備増強も視野に入れている。
JUKI/高付加価値機種が伸びる
JUKIは、衣料・インテリアからカーシートまで縫製機器の豊富なラインアップと縫製研究所というコンサルタント組織を生かし、ベトナムでもハノイとホーチミンを軸に、販売からサービス、コンサルタント活動まで広範囲に展開している。
同国における今上期(07年1~6月)の工業用ミシン販売は、前年比約4割増と好調だ。背景には、同国のアパレル輸出拡大や1月のWTO(世界貿易機関)加盟などがある。
日欧米主要国へのアパレル輸出額は、06年に前年比22・5%増、今上期も同21・5%増を記録した。WTO加盟は、香港や台湾、韓国系の投資を促し、設備の新規導入や更新に追い風となった。
他の市場に比べ、自動糸切り本縫ミシンや特殊ミシン、自動機など高付加価値機種の販売比率が高い。都市部では労働力不足に直面しており、大手や輸出縫製志向の企業は、労働条件の改善による労働力確保、糸切りミシンなど省力機導入による生産性の向上に取り組んでいるからだ。
日系企業の大半は、ダイレクトドライブやドライ、省力機を使い、高生産性・高品質でベトナム縫製業界をリードし、競合する現地企業も追随する。高付加価値機種への需要はますます増える見通しだ。
また日本人駐在員のほか、日本とシンガポールから適時技術者を派遣し、ユーザーへの教育セミナーなどを頻繁に実施。メンテナンス技術の向上によるロスタイムなどの削減にも取り組む。今後もハードとソフトの両面から顧客満足度を高めていく考えだ。
当社のベトナム視察団報告/ベッテン、ハノシメックス 国営から株式会社へ
当社はベトナム繊維業界の視察ツアーを10月7~12日の日程で実施した。素材メーカー、商社、ユニフォームアパレル、インテリアメーカー、物流企業などから10数人が参加してベトナム繊維事情を視察した。ホーチミンとハノイで現地繊維企業と日系縫製企業などを訪問したが、ここではベトナムの繊維企業で最大規模を誇るとともに、知名度でも最も高いベッテン社(ホーチミン)と、ハノイで紡績から縫製まで手掛けるハノシメックス社を紹介する。
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ベッテン社は今年で創業31年目を迎えた。トア副社長は「6月に株式会社化したことを機に会社の運営が変わってきた」と語り、「これから付加価値のある取り組みをしていきたい」考えだ。
ベッテン社の資本金は1500万米ドルで、6月に国営企業から株式会社化し、資本金の過半数の51%を国が持つものの、残りは取引先や幹部社員が株を持つ形に移行した。同社はグループ企業を含め総従業員が2万1000人、主力の紳士ドレスシャツをメーンにグループ企業を含めた売上高は約300億円になる。輸出が9割を占め、日本向けが26%、米国向け28%、欧州連合(EU)向け23%、アジア向け10%、その他12%の構成になる。また、ベトナム国内では400店舗(フランチャイズ店8割、直営店2割)の小売店を抱える。
日本との取り組みでは、すでに丸紅が紳士ドレスシャツで月産20万点規模の縫製スペースをライン契約。ベッテン社はここ2、3年で加工賃決済から生地買い・製品売りの決済手法に転換しつつあり、付加価値のある取り組みを増やしていく意向だ。
一方、ハノシメックス社は1984年に設立した紡績・ニット・タオルなどの工場を持つ国営企業。ビン副社長は「年内にも株式会社に移行する」とし、「国が54%、役員・従業員が21%、持ち合い5%のほか、残り20%の株式を外部に売り出す」計画だ。
84年以前は小さな紡績工場だったが、90年から布帛、ニットの縫製工場を新設、94年からタオル工場も設置。2000年からはデニム関係の縫製工場と洗い工場も併設している。本社敷地は22ヘクタールもあり、紡績は15万錘。製品は年間1000万着を生産する。従業員6500人。売上高は約120億円。輸出と内需が半々で、輸出は99年まで日本向けが中心だったが、2000年以降、米国向けが増え、現在は米国向け65%、欧州向け20%、日本向け15%。