特集香港/日系商社・繊維企業の戦略 独自機能でビジネス深耕
2007年10月04日 (木曜日)
香港の日系商社・繊維企業にとって、これまで主力事業としてきた対日製品ビジネスはここ数年、華東地域や山東省、遼寧省など中国沿海北部へ発注先が移り、全般的に減少傾向が続いている。このため香港の日系商社・繊維企業は、従来から拡大を図ってきた対欧米製品ビジネスをはじめ、香港の現地法人として独自の機能を打ち出して、ビジネスを拡大する姿勢が鮮明になってきた。
バングラデシュ生産を強化/対欧米製品事業拡大へ布石
今期の香港の対日製品事業は、日本での衣料品の店頭商況の不振を受け、下期に向けて不透明感が広がっている。その分、欧米市場をターゲットとした製品事業の拡大など独自の取り組みに力が入る。
製品事業の欧米市場開拓で先行する伊藤忠商事のプロミネントアパレル香港(中西英雄社長)は、欧米や中東市場に向けた製品、テキスタイル事業が80%を占め、対日製品ビジネスは約20%にすぎない。
主力の対欧米製品ビジネスでは、ベトナム・ホーチミン事務所との連携で、ハノイ近郊の縫製拠点を活用したスーツ供給が軌道に乗り始めた。米国向けが順調にスタートし、欧州向けの展開も視野に入る。「ドレスシャツとのセットでの展開も可能」と中西社長は拡販への手応えを語る。アイテム拡大のもう一つのポイントとするセーターも、2010年の本格供給に向けて着々と生産背景の整備を進めている。
対欧米製品ビジネスの生産基盤は、広東省を中心とした中国・華南地域に加えて、ベトナムとバングラデシュだ。とくにバングラデシュは生産背景の強化が進む。7月に資本金50万ドルで現地工場と合弁のニット工場を設立(80%出資)した。10月から稼働し、当面はセーターを中心に生産する。
「ベトナムよりも付属品などがそろう。1980年代から米国向けを手掛けている国だけにモノ作りを知っていて、カットソーやセーターに対応できる人材も豊富」と中西社長はバングラデシュ生産の利点を説明する。
バングラデシュ拠点は今期、品質管理スタッフを含めて30人体制となり、品質の強化や生産管理が一段と進んだ。アイテム的にはシャツやパンツが中心だが、今後はバングラデシュ生産の特徴を最大限に生かし、対欧米製品ビジネスの一層の拡大を目指す。
豊島アジア(岡崎靖生社長)は対日製品ビジネスでセーターやカットソー、デニムの加工物などを展開する。今期は主力のセーター事業で、早めに生産スペース確保に動いたことが奏功した。
全般的に対日製品ビジネスが縮小を続けるなか、SPA(製造小売業)型アパレルの従来以上に多品種で小ロットな要求への対応を可能にしたことで、07年上期(1~6月)は例年並みの取扱高で推移する。
下期も第3四半期までは例年並みの動きだが、第4四半期は冬物に向けた発注が日本の衣料品店頭の不振の影響を受けて遅れ気味で、「このままだと通常よりも10日程度は納期を切り詰めることになるかもしれない」(岡崎社長)と懸念する。
今期のポイントとする欧州向けのセータービジネスは、欧州で約30店舗展開する小売店との直接取引など、同社自身が企画の主導権を持って推進し、現在は総取扱量の約10%を占める。これを20%程度まで高めることを中期的な目標に掲げるが、今期は日本向けで従来以上にセーターの幅を広げる凝った製品が多く、対応に追われたこともあり、欧州向けは横ばい推移にとどまる。
今後はカットソー風のアイテムやユニセックス感覚のアイテムなど、応用範囲が広がってきたセーターを中心としたニット製品で、香港独自の企画提案力を一段と磨くとともに、一部でトライアル生産をスタートさせたベトナムなど、東南アジアの生産拠点の整備を進めていく。
企画提案の蓄積に優位性/広がる取り扱いアイテム
住金物産香港(伊藤道秀社長)の対日製品ビジネスは得意のニット製品が50%を占め、残り50%をカットソー、布帛、インナー製品で3等分するアイテム構成になっている。07年上期(1~6月)の業績は対日のニット、カットソー、インナーが安定した取扱高で推移する一方、布帛は対日ビジネスが若干苦戦している。
同社は対日製品ビジネスが90%を占め、欧米向けビジネスはテキスタイル、製品含めて10%で、深耕はこれからだ。対米ビジネスはデニムなど布帛が好調で、テキスタイルビジネスも伸びている。繊維事業を統括する都甲修取締役繊維部長は「セーターを中心とした得意のニットで力を発揮したい」と今後の方向性を語る。
住金物産繊維米国(本社・ニューヨーク)と香港法人の連携で、顧客アパレルメーカーや小売りの売り場がある米国の現場と、香港のバイイング・オフィスをスムーズにフォローし、生産と販売が一体となって細かくニーズに応え、ビジネスを拡大する。
ここにきて製品ビジネスで香港の企画提案力や素材調達力など諸機能を見直す動きが、対日、対欧米のどちらの分野でも起こっている。香港は本土の華東地域などとはこれまでの繊維産業の歴史、蓄積が違うだけに、現地に香港人の優秀なデザイナーが多く、商社など繊維関連企業は外部スタッフとして比較的容易に機能を取り込める。都甲取締役は「香港の企画提案力や素材調達力に対する潮目が変わりつつある」と説明、香港ならではの独自機能を高めて対日、対米ビジネスの拡大に結びつける。
双日グループの香港繊維法人、NOWアパレル(小倉弘二社長)の07年上期(1~6月)は、大手SPA(製造小売業)向けを主力とした対日製品ビジネスが「それほど落ち込まなかった」(福井馨取締役)ことから、前年並みで推移した。
同社の製品事業は人員配置などワーク的な側面から見て対日が80%、三国間取引が20%の比率になる。今期は対米製品ビジネスで米国現地法人、双日アパレルUSAとの連携に相乗効果が表れてきた。従来はレディース分野でミッシーを対象としたエレガントな布帛製品をメーンとしてきたが、ニット、カットソー製品などにも供給アイテムが拡大し、着実に商流を広げている。
同社は昨年6月に青島のサンプル縫製と検品を主業務とする子会社「青島双日服飾」に増資し、デニムからエレガンス系のカットソーまで小ロット生産で対応できる縫製工場に拡張した。同工場が今年の4月から本格稼働したことで、同社がメーカーとして、シッパーとなって米国の顧客アパレルなどに直接販売するビジネスモデルの構築が可能となった。このため香港にバイイング・オフィスを構える米国の顧客とのダイレクトな取引関係も増えつつある。また、青島即発集団と合弁する織・染め一貫工場「青島即髪龍山染織」との連携を深めて、素材から製品までの一貫生産も拡大する。
アセアンのゲートウェイ/急増するベトナム取扱高
対日製品ビジネスでも、華東地域や山東省、遼寧省など沿海北部にない香港独自の機能を追求し、ビジネスの拡大を図る動きが活発化している。
三菱商事の香港繊維現地法人トレディアファッション(中山拓磨社長)は、取扱高の9割を占める対日製品ビジネスで、一段と重要度が増してきたアセアン(ASEAN=東南アジア諸国連合)へのゲートウェイの役割を果たす。
中国で8月Ⅳ日から新たな加工貿易制限がスタートするなど、生産拠点の中国一極集中を懸念して、ベトナムなどインドシナ半島を中心とした「中国プラスワン」が再び注目を集めている。同社は香港本社を「アセアンへのゲートウェイ」として位置づけ、ベトナム事務所と連携、コントロールセンターとしての機能をフルに発揮する。
金融、情報、物流の統合センターとしての高い機能を持つ香港について、中山社長は「かつて中国へのゲートウェイの役割を果たしたときの人や組織、ノウハウが残っている」と優位性を分析する。
同社の奝年上期(1~6月)の取扱高は、前年同期比5・2%増の3億8000万㌦と堅調に推移した。香港本社取扱分が若干減少したが、上海現地法人トレディアチャイナ、ベトナム事務所の取り扱いが増加した。なかでもベトナム事務所の取扱高は同哿・6%増の5200万㌦と倍増のペースで推移する。4月―3月に決算年度を変更した通期では、ベトナム事務所の取扱高1億㌦超えを目指し、香港、中国を含めた連結で取扱高9億㌦、日本円換算で1000億円の大台を視野に入れる。
東レ香港(平井隆次社長)の上期(1~6月)はほぼ計画通りに推移する。2010年を最終年度とする中期経営課題「IT2010」で計画する「取扱高500億円」の目標は前倒しでの達成が視野に入ってきたため、550億円に上方修正した。今期の課題の一つとするナショナルスタッフの育成強化では、幹部候補社員を日本での研修に派遣するなど着実に進んでいる。
「1年半から2年くらいかけて体質強化を図りたい」と平井社長は今後の方向性を明かす。具体的には新たな独自ビジネスモデルの構築だ。
すでに同社は対日製品ビジネスで、東麗合成繊維〈南通〉(TNFL)の原糸を香港のタルニット(TAK)で編み立て、東レ香港の全額子会社多麗製衣〈珠海〉(THKアパレル)で縫製する、東レグループとしての「ワンストップトータル」効果を発揮したビジネスモデルが成果を上げている。
これからの重要課題として原料、原糸、テキスタイルなど素材系ビジネスでコミッションビジネスから脱却し、産業資材分野も含めた「御用聞きに終わらない需要創造型のビジネスを構築する」(平井社長)ことを挙げる。そのためには、商社機能を持つ同社のDNAと香港の地の利が生きてくるとする。
また、地域的にはトーレ・ドイツなどと連携し、機能素材を活用した欧米市場向けビジネスの拡大が大きなテーマとなる。東レグループの研究開発力、技術力、生産力、海外ネットワークなど様々な経営資源に同社独自の機能を付加し、事業環境の変化に対応した「中身のあるビジネス」を構築する。
現地SPAと取り組み/物流含めトータルに対応
香港豊田通商(神木孝社長)の上半期(4~9月)の取扱高は、前年同期比5%増と順調に推移する。利益面でも計画通りに推移しており、下半期も現状のペースを維持する見通しだ。昨年の旧トーメンとの合併で香港拠点も統合され、合併後1年を経て、事業の整理・統合が順調に進んだことが背景にある。
同社の事業分野別の取扱高比率は、原料・資材事業が№%、生地事業が№%、製品事業が¬%と、3分野のバランスが取れた構成となった。原料、素材系のビジネスでは、スパンデックスのストック対応や米国のスポーツ衣料向けテキスタイルビジネスが堅調に推移する。自動車関連事業で培ったノウハウを生かして、不織布の用途開発にも取り組む。
製品事業では6~7割を占める対日ビジネスは減少傾向にあるが、対欧米ビジネスが着実に成長している。同時に今期は、香港独自のビジネスも広がりを見せつつある。とくに香港の有力SPA(製造小売業)などへの製品ビジネスが形を成し始めた。
「リテール分野も含めて地元のSPAやアパレルメーカーとどのように協業するかがポイントになる」と神木社長は今後の方針を説明する。同社ではまず、有力SPAの中国、アジア、欧米市場進出に際しての物流業務での協業など、バリューチェーンの構築で連携を深める構想を持つ。
また、より独自色の強い取り組みとしては、豊田通商グループの香港物流事業会社「ホットライン・インターナショナル・トランスポート(HIT)〈香港〉」と連携して日本の有力アパレルの欧州向け物流をサポートする。
日本の豊田通商は今期、ビスケーホールディングスや福助への出資を通じて、リテール分野との連携を強化し、バリューチェーン全体への取り組みを強めている。香港拠点も同じ方針の下、香港発信の新しいビジネスの開拓に乗り出す。
三井物産の香港繊維現地法人アルタモーダインターナショナル(押切武比古社長)の製品事業は、三井物産インターファッション(MIF)との連携の下、百貨店アパレル向けのセーターなどを中心に対日ビジネスが咊%以上を占める。奝年度上半期の取扱高は「前年同期と比べてプラスで推移した」(押切社長)が、下半期は日本国内の店頭商況の厳しい状況を織り込み、通期では横ばいを維持する見込みだ。
今期は(1)内部統制の強化(2)現地スタッフの活用(3)生産背景の強化、の3つをポイントに挙げる。内部統制の強化では、三井物産本社のコンプライアンス規定に則して、統制管理部長を置くなど機構を改革した。現地スタッフの活用では、優秀な人材を登用し、現地スタッフだけで発注、フォローを完結する態勢を取り入れた。これによって生産現場とのコミュニケーションが従来以上に緊密になるなど効果が表れている。
生産背景の強化では、MIFとの連携でオーダーの集約を顧客軸から布帛、ニット、カットソーなどアイテム軸に切り替え、生産現場がより効率的に取り組める仕組みとしたことで、有力工場との取り組みが深まっている。また、MIFとの取り組みでは物流改革室と関連物流企業の香港GFAとの3者連携による物流改革も進める。