テキスタイルコンバーター/年明け後、期待持てる動き

2000年02月10日 (木曜日)

 テキスタイル・コンバーティング業界は、年明けから二月にかけて落ち着いた動きをみせている。はっきりした景気の回復はないものの、例えば大阪織物卸の健康保険組合からの脱退会社が、九八年四月~九九年三月では二十社以上あったのに、九九年四月~同十二月の期間では二社しか脱退していない。政府の信用保証・中小企業対策で救われた面もあり、それだけ倒産や廃業が減っていることを示している。全体のパイが縮小しているのは明らかだが、生き残りの意志をはっきりさせた生地商では、各社独自の路線が目立ってきた。

 「十二月出荷の動きは良かった。昨年よりアップだ」(コッカ)、「年明けは意外と盛り上がっている。昨年も良かったが、今年もそれに匹敵する動き。東京、大阪ともに本番ムード」(ニチメンファッション)-など独自路線を進める企業では、今年への期待感が高まっている。「しょせん、すべては海外生産になってしまうのさ」というあきらめムードを捨て、国内で生き残りを図る企業はまだまだ多い。

 染工場では、昨年十一~十二月で一回目の生産の「山」を経験したが、一月末を中心に開催されたアパレルの展示会のその後の発注を受けて、生産は二月が二回目の「山」となる。まさに二月が勝負時だ。

 「商況は底を打ち、商売に前向きな面を感じる」というのは小林繊維。規模はかつてより縮小したものの、「明るく元気な色柄」を軸にした独自のプリント品ぞろえに小売店の評価は高い。

 豊島とがっちり組んだ体制で、復活を期す。日本形染や東海染工の特化加工の展開にも期待がかかる。

 有輪商店は、趣味性を生かしたキルト素材が好評。あくまで小売店が対象だが、独自の色柄の設定がバイヤーの興味を引く。オーストラリアや台湾など海外からの展示会への来場が増え、輸出が着々と進展している。

 タンゴヤは、全国の高級仕立て服店や生地切り売り店が対象で、一メートル当たり二万円などの高価なテキスタイルを販売している。欧州からのブランド名が冠されるテキスタイルは、元々数が限られている。同社では、「カデナ」「バレンシアガ」「マリアーノ・ルビナッチ」などを展開するが、堅調な販売実績をみせる。

 他社のテキスタイルブランドで、撤退するところも出て、「高級ゾーンでは、ユーザーもサプライヤーも限定されているため、さながらいす取りゲームの様相」(業界関係者)を呈している。

 縫製品強化を志向するのは東光商事。一月の商談会で、春物向けのニットプリントを打ち出すと同時に、実用衣料を提案した。インド、中国などで生産した婦人衣料を販売するが、あくまでプリンターとしてのノウハウを基礎にしたファッション提案で独自性を出しているという。

 経営再建中のロンシャンは、二〇〇〇年二月期で売上高五十二億円を計画。うちテキスタイルは三十五億円とする。ミセス向けが中心だが、ヤングやSPA向け商売にも独自性を打ち出す考えだ。

 和泉繊維は、年頭の社長あいさつで「社員のゆで蛙(カエル)的発想を捨てる」と注意を喚起した。同社は着実、慎重に業容発展を続け独自性で、会社設立以来三十年間で一度の赤字もなく百億円企業となったことで知られる。

 大阪・船場の業界では、ニチメンファッションやコスモテキスタイルなどライバル企業がいるが、どちらも大手商社のグループ会社で、個人創業でオーナー経営の和泉繊維とは経営の基本が違う。

 銀行との関係においても、バックに大企業がいるところとは信用力で大きな違いがあるはずだが、そうした困難を乗り越えてのテキスタイルビジネス発展だけに注目されている。

 これまで「アクトウェル30」(五カ年計画)、「和ッショイ」(新五カ年計画)と中長期計画を進めてきたが、来年二〇〇一年が株式会社化三十周年であり節目になる。

 そのため不動産子会社「グッドウェル」を一月に設立し、二十一世紀の不動産対応を先取りしたほか、コンピュータ化、組織改編など改革を急いでいる。

 日本チェーンストア協会が先月二十五日に発表した全国スーパーの九九年の売上高は、前年比四・七%減(店舗調整後)の十六兆五千九百六十四億円、現在の方式で統計を取り始めた七七年以来、過去最悪の落ち込みになった。

 品目別の売上高増減をみると、食料品二・九%減、家電や家具などの家庭用品が六・六%減だったのに対し、衣料品は八・七%減と悪さを際立たせた。紳士衣料は、一一・四%減で、さらに悪かったといえる。

 このように消費の現況は、かなり悪い。合繊素材などスーパーで売られる頻度が高い業界では、こうした統計はもろに響いているはずだ。

 一方、全国百貨店の九九年の売上高は八兆九千九百三十五億円。全体の四割を占める衣料品が前年比三・八%減だった。スーパー、百貨店とも三年連続の前年割れ。

 かつて、スーパー業界の規模が今よりも小さかったころ、スーパーの売上高が百貨店のそれを上回った時には大ニュースになった。ところが今では、スーパーの規模は百貨店の倍くらいある。

 消費の有り様は大きく変わっている。消費者がそれを望んだからだ。消費者の要求が店を変化させ、小売店の要求が、アパレル卸や生地問屋、縫製工場の在り方を変えてきている。

 ユニクロやライトオン、ジーンズメイトなどカジュアル郊外店、青山商事やアオキインターナショナルなど紳士服郊外店、大創産業などの百円ショップチェーン、ヴィーナスフォートなどテーマ型ショッピングセンター、ホームセンター、アウトレット、ファミリーセール、外国資本の日本国内店舗網など最近十年で一躍注目されてきた新業態は、百貨店・スーパー販売統計には入らない。

 こうした店舗網の精緻な統計が世に出れば、繊維消費の見方もかなり変わるだろう。スーパーと百貨店だけは、業界がしっかりまとまっているため、細かい統計が毎月発表されるが、これらは「現代の消費市場の王様」とは言えない状況に変化している。

 今、全国の繊維産地で虚脱感とともに語られる言葉の第一は「ユニクロ現象」だ。同店を全国展開するファーストリテイリングの年間販売高はたかだか千七百六十億円(今八月期予想)ほどだから、日本の繊維消費全体と比較すれば微々たるものだが、同社の活躍が一際目立つだけに、キーワードになってしまう。

 「素材から縫製まですべて中国で一貫生産」というイメージが伝染し、日本の繊維産地やそれを販売する生地問屋、商社が不要になるのではないかという不安が高まる。

 しかし、広島県のデニムメーカーで作られたデニムや、紡績会社の西日本の染工場で染められた綿厚地など、ユニクロに採用されているメード・イン・ジャパンのテキスタイルも結構ある。生機でみれば、大阪産地の綿生地が最終的にユニクロに入っているケースもある。

 中国との受注争奪戦は決して捨てたものではない。「当社は安い物を作る」とは、中国の業者も現在ではもはや言わない。「高品質商品を追求」が世界のメーカーの合言葉になっている。

 当然、日本のテキスタイルメーカーも「日本の人件費は世界一。こんなところで安い物は作れない。高付加価値商品を狙う」と語る。しかし、実際には、マスプロ生産、原料からの一貫体制、合理化生産システムなど低コストの仕組み作りを実行している企業が生き残っている。

 「高付加価値品だからコスト合理化は不要」というのは誤りだ。もちろん、程度の差があるから中国やインドネシアより安く作るというのには無理があるが、ある程度までコスト差を詰めておれば、上記のケースのように中国と受注が逆転するケースはこれからも出てきそうだ。

 テキスタイル業界はこうした視点を失ってはならない。