注目の新素材「ミリオンダイヤ」今年から本格販売
2007年08月23日 (木曜日)
モリリン、丸一繊維、東レが共同開発した高品質・高感性の新タイプ紡績糸「ミリオンダイヤ」が、アパレル製品に個性を吹き込む新しい素材として注目を集めている。スポーツカジュアルやインナーウエア分野などで採用が決まり、新商品が店頭に並び始めた。
オンリーワンは知恵の結晶
ミリオンダイヤはモリリンが輸入代理店を務めるレンチングファイバーズ(オーストリア)の精製セルロース繊維「リヨセル(テンセル)」や、「モダール」原綿と、東レの特殊中空ポリエステルや3GT複合糸などの長繊維を、丸一繊維独自の「三次元特殊複合紡績技術」によって組み合わせた芯鞘構造の特殊複合紡績糸。
組み合わせる原糸、原綿の種類によって様々な新しい特徴=付加価値を持たせることが可能になる。とくに三次元特殊複合紡績技術は、芯部と鞘部を円筒形にしてカバーリングするため芯部が糸表面に出ず、鞘部の特性を100%生かすことができる。
リヨセル、モダールとポリエステル長繊維を組み合わせたミリオンダイヤを素材とした製品には、大きく(1)高品質(2)高感性(3)環境への配慮――の3つの特徴がある。
具体的には、糸品質面として綿100%などの製品と比較して「糸の太さムラが少ない」「洗濯後の毛羽立ちが出にくい」「寸法安定性に優れている」「単糸で使用しても斜行が起こりにくい」「シワになりにくい」といった特徴を持つ。
高感性面では「ソフトなタッチ」「適度なハリ・コシ感」に加え、「軽量感」があり快適な着心地をもたらすほか、高均質なテキスタイル外観を実現する。
また、リヨセルは製造工程において廃棄物・排水がゼロに近く、原料のユーカリ栽培でも大規模な灌漑水や農薬が不要で、環境への負荷がほとんどない環境に優しい素材として世界的に評価が高まっている。組み合わせる長繊維を再生ポリエステルやポリ乳酸(PLA)繊維にすることで、より環境に対応した差別化素材の開発も可能になる。
昨年6月の発表から1年、今期から本格的な販売が進んだことで、カジュアルウエアやスポーツウエア、インナーウエアなど、すでにミリオンダイヤによって様々な個性が吹き込まれた商品が店頭に並び始めている。
アイテムに合わせた独自性の打ち出しやすさや環境への対応など、ミリオンダイヤは今後も婦人・紳士衣料やカジュアルウエア、スポーツ衣料、ユニフォーム、インナーウエアなど幅広い衣料品用途での展開が期待される。日本にしかできないオンリーワン素材を生み出し、世界に発信するという3社の高い志が、従来にない紡績糸として結実、アパレルメーカーなどにも着実に広がっている。
東レ・安藤敏彦短繊維事業部長/3社の優性結合により誕生
ミリオンダイヤは、モリリンさんの精製セルロース繊維「リヨセル(テンセル)」や、「モダール」という特徴のある素材と当社の差別化長繊維、そして当社グループ企業の丸一繊維が有する村田機械のボルテックス精紡機を優性結合させることで誕生しました。
モリリンさんはこだわりのある糸の展開を強めておられますが、当社もグループ企業における紡績事業の再構築に取り組んでいました。そして、量から高付加価値化への事業転換を進める上で、この数年、おろそかになっていた原料や糸にこだわった開発を改めて重視しています。
その中で生まれたのがミリオンダイヤであり、お互いのニーズが合致したとも言えます。私としては将来を担う取り組み型の新紡績糸として位置づけています。
当初はニットを中心にアウター向けに展開しましたが、織物用の糸開発も進み、ニットアウターから織物によるボトムスまで幅広く展開できるようになりました。今はセルロース繊維ブームでもありますし、今後の拡大に期待しています。
織物用での技術を確立するために、丸一繊維は苦労したと思います。リヨセルやモダールの良さを追求する一方、柔らかさを出すために3GT繊維やナイロンなどとの長短複合糸にしたことが開発に成功した要因でしょう。
糸種は40番手まで生産していますが、インナー向けではさらに細番手化が求められていますので、現在はその開発に力を入れています。
当面の目標は現在の倍増に当たる年間100トン以上です。ただ、量を追うのではなく、糸作りにこだわりながら、価格を維持しながら、大切に販売できる素材に育成したいと考えています。
丸一繊維・田島譲社長/長短複合の頂点商品に育成
当社は長短複合糸では約30年の歴史があります。糸魚川工場では4分の1を長短複合糸が占めています。ミリオンダイヤは村田機械のボルテックスと当社の長短複合糸技術を融合させて開発した素材であり、長短複合糸の頂点商品として位置づけています。
長短複合糸は細番手化や芯部分の比率を高めることが非常に難しい。細番手化すると芯部分の比率が高くなり、芯部分が表に出てくるためです。これをいかにクリアするかが技術面でのポイントです。鞘部分で風合いを出し、芯部分で物性を付与する。その芯部分を大きくすれば世の中にない素材になります。
ミリオンダイヤも細番手化については、この一年の開発で60番手まで紡績できる技術を確立しましたが、さらに細番手への要望が強まっていますので、80番手など超細番、また、10番など太番化も同時に進めていきます。
今年7月には年間210トンまで生産できる体制を整えましたが、あくまでも頂点商品として大事に育てていくことで、モリリンさん、東レとも意見は一致しています。また、10月には開発機も導入します。今のレベルに満足せずに、モノ作りに取り組みます。
モリリン・鎌田登取締役/オンリーワンは知恵の結晶
当社は1990年の初めからオーストリアのレンチングファイバーズとの協働で、日本を基点にリヨセル(テンセル)、モダールを展開してきました。10数年を経て次世代に向けた高度化、高品位化を模索していたタイミングの04年に丸一繊維から「リヨセル(テンセル)」や、「モダール」の複合による新紡績糸の共同開発提案がありました。
やるからにはジャパン・クオリティーの象徴としてオンリーワン商品を目指したいと考え、日本が誇る新合繊を芯に新セルロース化繊を鞘に配し、長短繊維を複合した究極の新紡績糸の開発を目標としました。
長短複合紡績糸の商品は、原料繊維の吟味から紡績、織り・編み加工、縫製に至るまで、高度な要素技術が多岐にわたって組み合わされています。各部門のプロが知恵を結集したことが、オンリーワン商品確立の決め手です。東レさん、レンチング社の全面協力が開発推進のカギとなりました。開発までの苦労は枚挙にいとまがないほどですが、参加メンバーが粘り強く知恵を出して乗り越えてきました。そういう意味ではミリオンダイヤは知恵の結晶の商品です。
ミリオンダイヤは、新合繊が持つ機能(防縮・防シワ・軽量・伸縮・速乾など)と「リヨセル(テンセル)」や、「モダール」が持つ機能(吸湿・吸水・保水・肌低刺激など)、官能(光沢・ソフト感・反発、風合いなど)を併せ持ちます。加えて3次元複合紡績技術によって糸ムラが少なく、高均質で芯鞘被覆が非常に安定しています。単糸にもかかわらず毛羽や糸トルクが少ないなど、従来の長短複合紡績糸には見られない多くの長所を持っています。
今後は、ミリオンダイヤの様々な特徴を生かした従来用途への展開は無論のこと、島精機製作所のホールガーメント編み機用途や成型インナー用途、経編み用途などのほか、例えばセルロース系の紡績糸で顧客の要望はあっても課題があって定着しきっていないような用途開発にも挑戦します。太番手から細番手までミリオンダイヤならではの用途開発を進め、市場に広く定着させていきます。
アウトドア用品展で披露/欧州バイヤーも高評価
ミリオンダイヤは、欧州でも本物志向のスポーツブランドやアパレルメーカーのバイヤーから高い評価を得た。
モリリンでレンチング素材を展開するグローバルマーケティンググループ(GMG)は、7月19日から22日の4日間、ドイツ・ボーデン湖畔のフリードリッヒスハーフェンで開かれた欧州最大のアウトドア用品展示会「ヨーロピアン・アウトドア・トレードフェア」で、初出展したレンチングファイバーズのブースに、ミリオンダイヤやリヨセル(テンセル)を改質して開発した消臭素材「デオセル」などの生地サンプル20点、製品サンプル10点を出展した。
今回の出展はミリオンダイヤによる製品サンプルを見たレンチング社からの要請で実現した。アクティブスポーツウエア担当のアンドレアス・ガトラー部長は、「ミリオンダイヤはテンセル原綿の可能性を示した。テンセルと日本のイノベーションがコラボレーションした成果」と賛辞を惜しまない。レンチング社にとってもミリオンダイヤによって、長年の課題であったゴルフやテニスなどに対応できる素材を披露できたことが、「今回の展示会の最大のトピックス」(ガトラー部長)と説明する。
中空フィラメントとテンセルによるミリオンダイヤは、ニット生地などで従来にない軽量性を実現、来場した多くのバイヤーから高い評価を得た。また、子供市場を新たなターゲットとする多くのスポーツアパレルが、外側にテンセルを使うことで肌に優しい特性を得られることに強い関心を示した。
モリリンは4日間の会期中、有力スポーツアパレル11社と具体的な商談を進め、3社とはすでにサンプル生産など具体的にビジネスが動き始めている。欧州の有力スポーツアパレルは、ミリオンダイヤを島精機製作所のホールガーメント編み機によるスポーツ衣料で活用する希望を持つ。そのため、モリリンのGMGは島精機製作所のイタリア販売子会社シマ・オルシーとも連携、欧州市場を視野に東レ、レンチング、島精機の3つの世界トップ技術を組み合わせたビジネス展開を目指す。
レンチングファイバーズ・池村祐子マーケティングマネージャージャパン/プレミアムの高い糸
レンチングファイバーズでは、2年前から日本でもアクティブスポーツ分野への拡販に力を注いできました。モリリンさんとは初期の段階から良好な協力体制を継続しています。従来、セルロース系繊維は、ヨガウエアなどスポーツ分野でもライフスタイル系で使われていました。今回、ミリオンダイヤがアクティブスポーツ分野で採用されたことは画期的なことです。
ミリオンダイヤは素材として、リヨセル(テンセル)の良さを引き出し、二次製品で綿100%とは明らかに違う風合いや着心地を実現しています。丸一繊維、東レとの協働によって日本でしかできないプレミアムの高い糸になっています。
ミリオンダイヤは芯と鞘の組み合わせでおもしろい糸が生み出せます。それだけに今後も様々な機能を持った差別化糸が登場し、従来からレンチング素材が強かったインナーウエア分野も含め、幅広い分野に広がると考えています。
弊社ではJFW、ジャパン・クリエーション(JC)に合わせて、レンチング原料を活用した素材コンテストを開きます。ミリオンダイヤをきっかけに、アクティブスポーツ分野に向けた開発が活発になり、新しい素材と出合えることを期待しています。