春季総合特集Ⅲ(5)/トップインタビュー/帝人フロンティア/ストーリー性を伝えること/代表取締役社長 執行役員 平田 恭成 氏/生産のリスク分散を実施

2022年04月25日 (月曜日)

 帝人フロンティアは2022年度(23年3月期)、衣料分野で反転攻勢をかける。21年度は、産業資材などが新型コロナウイルス禍の中でも回復を見せた一方で、衣料分野はASEAN地域でのロックダウン(都市封鎖)などの影響を受けた。そうしたことから今年度はASEAN地域でのリスク分散を実行に移し、インドネシアやベトナム北部などでの生産(縫製)を強化する。環境貢献にも継続して取り組み、新しいリサイクル技術の開発などを進める。平田恭成社長は新リサイクル技術について「1、2年で確立したい」と話す。

  ――ウイズコロナ時代に成長するために求められる要件は何だと考えますか。

 繊維業界の話をすると、衣料品やインテリアは実店舗で購入されるケースの方がまだまだ多いと思います。新型コロナ禍が続く中、どのようにしてリアルで物を売っていくかが問われるのではないでしょうか。ただ、在宅勤務の浸透などでオンラインでのやり取りがこれまで以上に身近になっています。リアルとネットの融合が加速していると言え、これを好機と捉えたいです。

 衣料品は大量生産・大量廃棄が問題視されており、供給量がどんどん増えることは考えられません。しかし、機能性や環境対応、サステイナビリティーなどに関するストーリーをきちんと伝えていけばビジネスを広げるチャンスが出てくると思います。これまでのように単に製造コストの安い場所で作り、価格の安さを訴えるだけでは消費者に見放されることになるのではないでしょうか。

  ――21年度はどのように推移しましたか。

 衣料分野は国内向けを中心に厳しい状況でした。新型コロナ禍によって生産拠点であるASEAN地域でロックダウンの措置が取られたことが足かせになり、ユーティリティーコストの上昇も響きました。一方で、スポーツやアウトドア、カジュアル向けの機能素材の輸出は前年度を上回る数字で推移しています。グローバルでの販売は力を入れたいと考えていたので、その目標は達成できました。

 インテリアと寝装関連は、20年度は巣ごもり需要の恩恵を受けましたが、それが一巡したこともあって若干勢いを欠きました。産業資材は20年度に新型コロナ禍が直撃して苦戦を強いられましたが、21年度は自動車関連を中心に復調しました。自動車分野は秋以降に半導体不足の影響を受けたのですが、年間トータルで見ると良好だったと言えます。自動車関連の海外工場も順調でした。

  ――22年度に入っています。経済や市場の動向は。

 中国での新型コロナ感染症の再拡大、コンテナ不足や物流費上昇、原燃料価格・ユーティリティーコストの上昇といった懸念材料はありました。しかし、米国や欧州を中心に経済活動が活発化していることなどから22年度の市場は21年度よりも良くなると予想していました。それがロシアによるウクライナへの侵攻で状況が様変わり、不安要因が大きくなってしまいました。

 ウクライナ危機による影響がどれぐらい続き、どれほど大きくなるのかは分かりませんが、天然ガスは1年程度悪影響が続く可能性があります。半導体生産のサプライチェーンへの影響も計り知れません。次に為替についてですが、輸出で恩恵を受けるものの、全体で見れば一部にとどまります。原油やガスなどを輸入に頼っている日本にとって過度な円安は歓迎できないでしょう。

  ――不透明な環境下でどのように事業を進めますか。

 ほぼ1年間にわたって緊急事態宣言やまん延防止等重点措置下にあった21年と比べて22年は消費が上向くとみています。製造コストが上昇する中、衣料分野は人員シフトなどによる効率化を図っています。今年度はその効果が出てくるでしょうし、収益も向上すると思っています。産業資材分野は人的資源を振り分けているほか、ウクライナ危機の影響を除けば経済は回復基調にあるので、自動車を中心に収益拡大を狙います。

  ――衣料分野での具体的な方針は。

 昨年はモノ作りの面で大きな混乱が生じました。ミャンマーの政情不安に始まり、新型コロナ感染が拡大したベトナムでのロックダウンがありました。当社のベトナムの縫製拠点は南部に集中しており、ロックダウンの影響は小さなものではありませんでした。リスク分散は必要不可欠であり、ベトナム北部やインドネシアへ拠点を広げるほか、ミャンマーも再活用します。

 縫製拠点の分散は、工場監査などで時間を要するので既に21年度の下半期から準備を進めてきました。「織物に強い」「ニットが得意」など国や地域によって特性が分かれます。部分的ではなく、全体を見た上で、どこでどのような商品を生産するのが良いかなどを考えます。バングラデシュにも駐在員事務所があります。同国での生産はまだ個別顧客対応ですが、将来はリスク分散のための拠点の一つになる可能性はあります。

  ――日本や中国での生産は。

 日本ですが、当社は北陸産地の企業と連携して付加価値の高い生地を作り、子会社の帝人フロンティアニッティングも堅調に推移しています。海外顧客から評価されている生地も多く、産地との絆をさらに強くしていきたいと考えています。中国も重要な拠点の一つです。帝人商事〈上海〉が中心になって生産の拡充を図っており、中国大手ブランドや新興ブランドとの取り組みが増えています。

  ――中期的視点ではどの当たりに重点を置きますか。

 地球環境の保全に資する素材でなければ残ることは難しいでしょう。リサイクルなどが重要になりますが、飲料メーカーもボトルtoボトルリサイクルを強化しているので、廃ペットボトルの確保が課題です。当社はタイで事業を始めているほか、新しいリサイクル技術を開発中です。新リサイクル技術は今後1、2年で確立できればと思っています。

〈春を感じる時/選抜高校野球と桜〉

 野球経験者の平田さんは、甲子園の選抜高等学校野球大会で春の始まりを思う。選手のプレーを見ているうちに桜の花も咲き、本格的な春を感じると話す。新型コロナ禍前は大阪市西区の靭公園へ会社の仲間と花見に出掛けていた。満開の桜を下から見上げると「本当に奇麗で圧倒される」のだとか。新型コロナ収束後の花見が楽しみとし、社員から声が掛かれば可能な限り参加したいと語る。「呼んでもらえそうですか」と問うと、「こればっかりは分からない」と答えたが、どこか自信がありげだった。

〈略歴〉

 ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員などを経て、21年4月から代表取締役社長執行役員。