春季総合特集Ⅲ(4)/トップインタビュー/東洋紡せんい/DXの活用で効率化実現/社長 清水 栄一 氏/22年度で黒字転換

2022年04月25日 (月曜日)

 苦戦が続く衣料繊維事業へのてこ入れを強化するため、東洋紡STCの衣料繊維部門と東洋紡ユニプロダクツを統合し4月、新会社・東洋紡せんいが誕生した。自社の強みと位置付ける中東向け輸出、スクールでの取り組みに重点を置き、衣料繊維事業の構造改善を進める。初代社長に就任した清水栄一氏に中期戦略を聞いた。

  ――新型コロナウイルス禍の収束後も事業拡大を続けていくには何が必要だと思われますか。

 4月から新会社としてスタートしたわけですが、何よりも重要なのは組織力の強化だと思っています。迅速な情報共有、重複業務の排除にどう(デジタル技術で企業を変革する)DXをリンクさせられるかが鍵になると言えます。営業現場や工場にDXを導入し、蓄積したデータをフル活用することで業務の効率化、省力化を実現します。

  ――富山事業所の生産体制を再編しました。

 これまでは販売力に比べて生産設備が過剰な状態でした。生産体制も筋肉質化するために、井波工場、入善工場を休止し、その機能を庄川工場に集約しました。マレーシアの生産拠点も活用し、庄川工場との一体運営強化に着手しました。

  ――2022年度から中期経営4カ年計画が始まりました。

 衣料繊維事業の構造改善に取り組み、一定規模の利益を稼げる筋肉質な体質へと転換させます。22年度で黒字浮上させることが喫緊の課題です。それと、産業繊維や非衣料でも本体の受け皿会社になれればと考えています。

  ――どの事業を重視していますか。

 当社の強みは中東向けの輸出とスクールです。ここに経営資源を重点的に配分し、衣料繊維事業全体を引っ張っていけるようにしたいと思っています。

 中東向け輸出では、トップゾーンでの生地売りのシェアを維持・拡大するとともに、全体のスケールを拡大していくため、第三国品が高いシェアを持つゾーンに製品OEMで参入できないかを模索しているところです。

 一方、スクールでは、旧東洋紡STCの守備範囲がニットの体育衣料にとどまっていたのに対し、統合した旧東洋紡ユニプロダクツは総合的に取り組んでおり、大手アパレルに精通した人材も豊富に存在します。両社の合体で「東洋紡せんいにいけば何でもそろう」というメリットが業界に浸透すれば、さらにシェアを上げることができるでしょう。

  ――ユニフォームは苦戦を続けていました。

 新型コロナ禍の影響を最も大きく受けたのがユニフォームでした。企業からの継続受注はあっても、新規受注がなくなってしまいました。加えて、当社が得意としてきたサービス、飲食業向けが大きく後退しました。回復にはもう少し時間がかかるとみています。

 当社は元々、紡績糸による織物を主力に展開してきましたが、現在のトレンドは長繊維ニットの方に流れています。トレンド対応を強化しながら、ペットボトル再生ポリエステルの次に何が求められるのかを慎重に探っていきます。

  ――スポーツにも力を入れてきました。

 主力として取り組むアパレルさんの数をもう1、2社増やし、拡販、増収につなげていきたいと考えています。生地売りで伸ばす用途、製品OEMで伸ばす用途を見定め、メリハリの利いた販促に取り組んでいます。

 ダウンウエア向けの販売が好調な「シルファインN」を再生ナイロン化し、それをどこまで細繊度化できるのかを試しているところです。22Tまでは開発できました。

  ――インナー・肌着が主力のマテリアルは。

 川下に行くほど競争力が失われるため、当社の強みのわた、糸で戦っていきます。「サステナブル・マテリアル展」への継続出展を通じ、非衣料・産業資材用途の開拓にも力を入れていきます。

  ――原燃料価格、物流費の高騰が続いています。

 今回ばかりは値上げをお願いせざるを得ません。当社は4月1日出荷分から値上げに着手しました。私自らが値上げ交渉に赴いています。

〈春を感じる時/“春”を感じる喜びを満喫〉

 インドネシアのTMI、STGで4年間を過ごした後、帰国し昨年6月、東洋紡STCの社長に就任。インドネシアでは「暦の上での春しか感じることがなかった」という。季節とはそのもの自体を見ることができないものであり、「春も明確な春自体を見ることはできない」。世間に起きるさまざまな事象を見ることで春の訪れを感じることができる。今年は久々の日本で「多くの事象を通じ春を感じる喜びを満喫したい」と語る。

〈略歴〉

 しみず・えいいち 1986年4月東洋紡績(現・東洋紡)入社。05年3月生活テキスタイル事業部ワーキングサービスグループマネジャー(大阪)兼XLA事業開発部主幹、17年5月グローバル推進部主幹及び東洋紡インドネシア、東洋紡STC(インドネシア)へ出向、18年10月参与グローバル推進部勤務及び東洋紡インドネシア、東洋紡STC(インドネシア)へ出向、21年4月執行役員、6月東洋紡STC社長。22年4月から現職。