春季総合特集Ⅱ(5)/トップインタビュー/クラボウ/質的成長へ価値観変化に対応/社長 藤田 晴哉 氏/高収益事業と持続的な事業を強化

2022年04月22日 (金曜日)

 「日本の繊維産業は『量的成長』ではなく『質的成長』を追求するしかない」――クラボウの藤田晴哉社長は指摘する。新型コロナウイルス禍を経て、繊維製品の消費構造が大きく変化し、消費者の価値観も変化しつつある。こうした動きに対応する「ワクワクする商品をどれだけ提供できるかが重要になる」と話す。同社は今期(2023年3月期)から新しい中期経営計画をスタートさせた。変化に対応し、「高収益事業の拡大」と「持続可能な成長に向けた基盤事業の強化」に取り組む。

  ――各国とも“ウイズコロナ”による経済正常化への動きが加速しています。こうした状況下で今後、日本の繊維産業が成長するための要件とは何でしょうか。

 日本の繊維産業の場合、やはり「量的成長」ではなく「質的成長」を追求するしかないと思います。というのも、新型コロナ禍前から消費構造の変化が進んでおり、さらに消費者の価値観も変わる流れが続いているからです。

 例えば百貨店の売上高を見ても、21年はついに食料品の売上高が衣料品の売上高を上回りました。食料品は消費者に「食べてみたい」と思わせるような多くの訴求ポイントを、地方物産も含めて発信することに成功しています。衣料品は、これが十分ではなく、価格競争に主眼が置かれたことで結果として商品も同質化しがちとなり、結局は消費者への訴求力が弱まるという悪循環が続いてきました。もう一つの変化は、サステイナビリティーを重視する価値観が一般の消費者にまで浸透し始めたことです。特にZ世代(1990年代半ば~2010年代序盤生まれ)でこの傾向が顕著です。

 こうした変化に対応することが「質的成長」につながるはずです。衣料品は、どれだけ消費者がワクワクするような商品を供給できるか。そのためには開発姿勢も従来のように効率だけを優先するのではなく、それこそ“遊び”も許容する態度が必要になっています。

 サステイナビリティーを実現する仕組みを作ることも重要になります。繊維産業は大量生産・大量消費を前提にしてきたことや、マイクロプラスチックの発生源とされるなど“サステイナブルではない産業”と思われてきた現状があります。こうした課題を克服することが欠かせません。当社も裁断くずなどを紡績糸に再生するアップサイクルシステム「ループラス」に取り組んでいますが、こうした仕組みは1社だけでは実現しません。コストダウンなど技術革新も必要です。このため企業間プラットフォームであるジャパンサステナブルファッションアライアンスにも参加しました。サプライチェーン全体で取り組みを進める必要があるからです。さらに今後はファンディングなどの仕組み作りもあり得るでしょう。

  ――21年度(22年3月期)をどのように振り返りますか。

 第2四半期(21年4~9月)までは計画に対して順調に推移しました。想定以上に経済正常化が進んだことで第3四半期(21年10~12月)には業績目標の8~9割までは達成できています。ただ、その後はオミクロン株による新型コロナ感染再拡大や、世界的な半導体不足による自動車生産減少、さらに原燃料高騰の影響が出ています。それでも半導体関連の事業が好調で、計画を上回って推移しました。最低限の目標はクリアできたと思います。

 繊維事業は構造改革の成果もあってタイ、インドネシア、ブラジル子会社が堅調でした。国内も紡績・織布の安城工場(愛知県安城市)でテキスタイルイノベーションセンターと連携した生産性向上に成果が出ています。子会社の大正紡績(大阪府阪南市)も健闘しています。ユニフォーム事業も堅調でした。業績予想で発表したように残念ながら今期も繊維事業は営業損失が残りますが、それでも黒字浮上に近いところまで回復しています。

 化成品事業は自動車生産減少の影響を受けましたが、半導体関連の樹脂製品が好調です。不織布も子会社の倉敷繊維加工(大阪市中央区)を含めて健闘しました。環境メカトロニクス事業は、FA(ファクトリーオートメーション)設備設計・製造のセイキ(富山県魚津市)がグループに加わったことが業績に寄与しました。

  ――22年度が始まりました。

 今期から新しい中期経営計画がスタートしました。基本方針は「高収益事業の拡大」「持続可能な成長に向けて基盤事業の強化」となります。高収益事業として半導体関連商品や開発を進めてきたロボットビジョンセンサーシステムがあり、繊維事業でもループラスや原綿改質による機能糸「ネイテック」があります。一方、基盤事業として化成品事業の自動車部材や建材は、いずれもメーカーとして自家工場のある事業です。やはり自家工場には大きな役割がある。工場がなければメーカーとしての価値を創出することができません。

 繊維事業はループラスやネイテックの拡大に加えて、熱中症対策ウエアラブルシステム「スマートフィット・フォー・ワーク」のさらなる拡大にも取り組みます。そのために4月からユニフォーム部に移管しました。これまでマルチデバイス化を進めてきましたが、さらに中継器を使用することでスマートフォンレスも実現しました。スマートフォンを持ち込めない労働現場への導入ハードルが下がりますので、本格的な採用拡大につながることを期待しています。羽毛代替となる中わた材「エアーフレイク」も原糸と併せて提案する体制にしました。提携する伊藤忠商事が供給する再生ポリエステル「レニュー」を使った開発なども進んでおり、原糸と連携して提案する方が効果的だと判断しました。これら取り組みの成果も含めて、まず繊維事業は今期で黒字浮上させます。

 前中計では新型コロナ禍などもあって目標達成には至りませんでしたから、現中計は前中計の最終目標を上回ることを目指します。

〈春を感じる時/ツクシ狩りの思い出〉

 「父(元クラボウ社長の藤田温氏)がツクシのおひたしが好物だったので、春といえばツクシを思い浮かべる」と藤田さん。3月に入ると家族でツクシ狩りに出掛け、採ったツクシのはかまを取る指が真っ黒になったことが子供時代の思い出。「中学1年生の時にツクシのはかまを取る音を録音して深夜ラジオ番組『ABCヤングリクエスト』に投稿したら採用され、記念品をもらったことも」。今でも店頭にツクシが並ぶと昔を思い出す。もっとも「値段を見てびっくり」。

〈略歴〉

 ふじた・はるや 1983年クラボウ入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。