2022年春季総合特集(9)/トップインタビュー/ユニチカ/強い事業をより強く/社長 上埜 修司 氏/海外売上高を30%に拡大

2022年04月21日 (木曜日)

 ユニチカは2022年度、20年度から実行している中期経営3カ年計画の最終年度を迎えた。新型コロナウイルス禍の影響で目標達成が困難な状況にあるが、目標数値に近づけるべく、この間進めてきた対策の刈り取りを急いでいる。新型コロナ禍に伴い医療用ガウンの特需が発生したため、20年度は大幅増益を達成したものの、その後の反動で衣料繊維事業は苦戦。環境配慮型素材のラインアップを打ち出すなど「衣料繊維事業へのてこ入れを強化しており、早急に黒字浮上させることが喫緊の課題」と語る。上埜修司社長に中期戦略を聞いた。

  ――ウイズ・コロナの時代において事業拡大を続けていくために必要な施策は何だとお考えですか。

 新型コロナ禍に見舞われたこの2年間で学んだことは、強みのある競争優位な事業は厳しい中でも伸ばしていくことができるということでした。強い事業をより強くしていくためにポートフォリオの転換を急がなければなりません。

 それと、コロナ禍で加速したビジネス環境の変化に注意しなければなりません。たぶん元には戻らないでしょう。戻ったとしても、せいぜいかつての50%前後にしか回復しないとみています。この変化に取り残されないよう、意思決定のスピード化を徹底しなければと考えています。

  ――今後のユニチカグループの事業拡大をけん引するのは。

 高分子事業に経営資源を重点的に配分してきました。食品包装用フイルムの販売は着実に伸びていますし、今後も力を入れていきます。おそらく、ナイロンフイルムで当社は世界の上位5社に入っていると思います。世界で初めて用途開拓を実現したという自負もあります。

 旺盛な需要を取り込んでいくため、インドネシアで年産1万㌧の増設を実施しました。本来ならば21年度内に量産テストに着手する計画でしたが、新型コロナ禍で当初スケジュールに約1年半の遅れが発生してしまいました。現在、最終の仕上げ段階に入っており、業績に貢献してくるのは23年度からになります。それまでに海外物流の混乱が収まっていればいいのですが……。

  ――ガラスクロスの販売が堅調のようですが。

 トップ企業と互角に戦っていくため、用途を電気・電子分野に特化してきました。当社の製品の持ち味は超薄です。新型コロナ禍の影響がないとまでは言いませんが、今のところ至って順調です。新型コロナ禍の影響でデジタル化が加速し、ガラスクロスの需要拡大は25~26年ごろまでは続くでしょう。年間の設備投資額60億円前後のうち約10%をガラスクロスに振り向け、競争力強化に取り組みます。

  ――衣料繊維事業の今後をどうみていますか。

 新型コロナ禍で市場規模は75%前後に縮小したとみています。在宅勤務の浸透でフォーマルなゾーンが大きく後退してしまいました。一方で、消費の停滞が続いていますし、衣料繊維を取り巻く状況は厳しいままです。加えて原燃料価格や物流費といったあらゆるコストが高騰しており、頭の痛い状況が当分続くのではないでしょうか。

 もう一度、得意な分野、あるいは将来を展望できる分野に絞り込んで体質強化に努めなければなりません。一般衣料が新型コロナ禍の影響を大きく受けており、衣料繊維のバリューチェーンの見直しが必要かもしれません。

 当社は今、海外へもサプライチェーンを広げようとさまざまな取り組みに力を入れています。生産拠点は紡績のインドネシア・ユニテックスだけですが、これ以外にアジアの縫製と国内との連携をどう強めていくかが課題です。テキスタイルの海外生産は協力会社との連携でうまくいっています。

  ――海外売上高比率を30%前後に引き上げると表明されていました。

 20年度は新型コロナ禍の影響で19%まで落ち込みましたが、21年度は22%前後に回復させられそうです。新型コロナ禍以前の状態に戻りました。増設したインドネシアのナイロンフイルム、タイのスパンボンド不織布が新型コロナ禍で当初計画通りに稼働できないのが痛いところです。

 海外物流の混乱が今後どう推移するかにもよりますが、何とか22年度に大きく伸ばしたいと思います。ナイロンフイルム、スパンボンド不織布だけでは30%に到達させられないので、他の商材でも海外での拡販に力を入れていきます。

  ――ユニチカグループは多彩な環境配慮型素材を展開しています。

 これが当社の一つの強みだと思っています。サステイナブルを追求する流れは今後も強まるでしょう。コットンがそもそもサステイナブルですし、コットン100%のスパンレース不織布も同様です。100%バイオのナイロン11「キャストロン」もラインアップしています。かつて研究開発部門に所属していた時から当社は環境にこだわったモノ作りを強化してきました。大きく伸ばしたいところですが、当社だけでは難しい。海外企業と組んで仕掛けていくため、技術蓄積を着々と進めています。

  ――ユニチカトレ―ディングの新事業開発室による取り組みが軌道に乗り始めました。

 Eコマースやクラウドファンディングを使って何ができるかということを考えながら、これまで幾つかの新商品をクラウド経由で販売してきました。厚生労働省からの求めに応じ一昨年、医療用ガウンを大量に生産・販売する取り組みを主導したのも新事業開発室です。

 マスクや植物由来の毛布、ガーゼケットなどの5アイテムを販売してきましたが、今はまだ先進的な取り組みを模索している段階です。環境や安心、安全といった切り口から新しい商材を開発し、未知の領域を開拓することができればと考えています。

〈春を感じる時/早咲きの桜に春の訪れ感じる〉

 「家のそばの早咲きの桜が開花した時に何よりも春の訪れを感じる」と言う。「うちのそばの桜は1週間から10日ほど早く咲く品種らしい」。研究所や工場に居た時は「宇治の桜の名所に繰り出し花見をした」と当時を懐かしむ。もっとも、この2年ほどは新型コロナ禍もあり花見には行けていない。もう一つ春を感じるのは、「入社式で新入社員に何を語りかけるかを考える時」と言う。新入社員になる人と一緒の奇麗な着物を着た女性を目にする時も「ああ春が来たんだなと思う」そうだ。

〈略歴〉

 うえの・しゅうじ 1983年4月ユニチカ入社、11年6月執行役員技術開発本部長兼中央研究所長、12年6月取締役執行役員、同年7月取締役上席執行役員、15年4月取締役常務執行役員、15年6月代表取締役常務執行役員、19年6月代表取締役社長執行役員。