2022年春季総合特集(6)/トップインタビュー/東洋紡/サステイナブルに貢献/社長 竹内 郁夫 氏/3本柱で業績拡大

2022年04月21日 (木曜日)

 東洋紡の新しい中期経営4カ年計画が4月に始動した。「サステナビリティビジョン2030」と合わせて近々公表することにしている。今回の中計には社会や地域からの要請を踏まえ、「企業理念を通じどういう事業で世の中に貢献できるのかを盛り込んだ」と竹内郁夫社長は語る。21年度までの中計では、新型コロナウイルス禍の影響を大きく受けたものの、好調なフイルム事業などが全体をけん引し、ほぼ目標通りの業績を確保できるとみる。新中計では、フイルム、ライフサイエンス、環境の3本柱で業績拡大に挑む。

  ――ウイズコロナの時代に成長を続けていくには何が必要だとお考えですか。

 人々が安心して生活できる何かを提供し続けることができない企業は淘汰(とうた)されていくのではないでしょうか。サステイナブルに貢献できる会社が存続できると考えています。

 この間、多くの投資家と面談してきました。いずれにおいても“サステイナブルへの貢献”がキーワードでした。新型コロナ禍の背景にあるのが環境問題であり気候変動です。新型コロナ禍に伴い、これまで力を入れてきたグローバルな生産が適地生産、あるいは地産地消に変わりつつあるのが印象的です。

  ――21年度で、連結売上高3750円、連結営業利益300億円を目標とする中期計画が終わりました。

 21年度の業績見通しは売上高3700億円、営業利益290億円です。新型コロナ禍によるマイナスの影響をあちこちで受けましたが、中期計画をほぼ達成できたと言っていいと思います。当期の業績を下支えしたのがフイルムやエレクトロニクス、それとPCR検査関連キットの販売です。反対に苦しかったのが自動車用のエアバッグ布。原糸工場で火災事故を発生させたせいで、本来ならば利益を出していなければならない事業が赤字に沈みました。

  ――繊維事業でも苦戦が続き赤字計上を余儀なくされました。

 新型コロナ禍で繊維事業を取り巻く環境は大きく変わりました。何よりもわれわれの主力顧客だった百貨店のゾーンが大きく落ち込んだことが痛かった。大きく打たれた商圏は新型コロナ禍が収まって以降も元の状態には戻らないでしょう。

 エクスラン(アクリル)事業は減損を行った結果、21年度で黒字に浮上する見通しです。衣料繊維事業は依然として苦しい状況を強いられていますが、非衣料・産業資材の方は堅調です。今も厳しさは続いていますが、先を見通せるようになってきました。

  ――新しい中期計画にはどのような拡大戦略を織り込みますか。

 現在、最終のとりまとめ中で、5月に中計の内容を明らかにします。現在の年商が3700億円ですから、本来ならば中計の実践で4千億円、あるいは4500億円を目指さなければならないところです。一方で縮小均衡を強いられる事業があり、この辺をどう見通すのかが難しい。

 主力のフイルム事業ではM&Aを通じ新しいラインを2本手に入れました。長く設備投資が行われてこなかった宇都宮工場の人たちは当社のフイルム事業にかける思いを理解し前向きに捉えてくれていると思います。

 エアバッグ事業では、タイで原糸工場の建設を進めており、6月から新設備が動きだします。エアバッグメーカーからの認証を取得するのに1年近くがかかるため、実際に売り上げを計上できるようになるのは23年4月以降になります。

  ――22年度からの業績拡大をけん引するのは何になりそうですか。

 フイルム、ライフサイエンス、環境の3本柱で業績拡大に取り組んでいきます。フイルムというのは意外に中国勢に浸食されていない事業です。国内のメーカーが市場をしっかりと押さえている。例えば、食品のパッケージは小ロットが必要ですし、国内生産・消費が多い用途です。何よりも品質の安定性がわれわれ日本勢の強みと言っていいと思います。

 現在、全体の20~30%を環境配慮型のフイルムが占めています。これを中計でさらに増やしていきます。ディスプレー用も大画面化に伴いまだまだ伸びていくでしょう。スマートフォン用も同様です。

 今のところ、フイルムには張り合わせの工程が必要なため、複合素材を展開する当社の強みをもっと生かしていくことができるでしょう。パッケージングでは30%のトップシェアを確保しており、ディスプレー用も当社が得意な用途です。

  ――モビリティー関連事業の将来をどう見ていますか。

 車の生産台数は今後も年率数%で拡大し続けるでしょう。エアバッグ需要もそれにつれて伸びていくでしょうが、まずは原燃料高騰に伴うコストアップを値上げで吸収していくことが最優先です。値上げが通らないと今後の設備投資が難しくなってきます。

 車はEVや自動運転の浸透でますます軽量化が求められてくるでしょう。主材料がこれまでのスチールから樹脂へとシフトする一方、室内空間に対する快適性へのニーズが高まり、われわれのチャンスも増えていくと思います。中計を通じ、事業規模を1・5倍くらいに伸ばさなければならないのかも知れません。

  ――岩国事業所(山口県岩国市)に多機能不織布センターを設けます。

 これまで数カ所に分散していた不織布に関する拠点を集結し、グループの知恵を集めて不織布市場を深掘りするためのものです。メルトブローやスパンボンドの設備を導入しました。マスクやフィルター、自動車内装材などをターゲットとする開発に取り組み、高機能不織布、環境対応型不織布の拡販をグローバルに進めていきます。

〈春を感じる時/丸亀城の石垣の桜〉

 「やっぱり桜でしょう」というのが第一声。実家が香川県丸亀市にあり、桜の季節を迎え、丸亀城の石垣がいっせいにピンク色に染まるのが何よりの楽しみと言う。例年、3カ月に1回、実家の様子を見に里帰りするのだが、新型コロナ禍の影響で最後に帰ったのは昨年の10月。「今春は桜を見ることができなかった」と残念そう。もう一つ、初々しい新入社員や学生が歩いている光景にも春を感じるとともに、「自分もリセットし、新年度に臨みたい」と感じるそうだ。

〈略歴〉

 たけうち・いくお 1985年4月東洋紡績(現東洋紡)入社、14年10月経営企画室長、15年10月参与経営企画室長、17年5月参与グローバル推進部勤務および東洋紡〈上海〉、東洋紡チャイナへ出向(董事長)、18年4月執行役員機能膜・環境本部長、20年4月常務執行役員、同年6月取締役兼常務執行役員企画部門の統括、カエルプロジェクト推進部の担当、21年4月代表取締役社長