特集 アジアの繊維産業(11)/東レのASEAN戦略

2022年03月30日 (水曜日)

〈タイ/ポートフォリオ転換加速/原糸からの一貫生産を強みに〉

 タイ東レグループは、合繊長繊維製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)と紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)による一貫生産の強みを生かし、ポートフォリオ転換を加速させる。

 タイ東レグループの2021年度(22年3月期)は新型コロナウイルス禍からの回復が進んでいる。特にTTSは売上高、営業利益ともに大幅に回復した。世界的な自動車生産回復を背景にエアバッグ原糸が販売をリードする。

 衣料用ポリエステル長繊維も延伸糸(SDY)が裏地向け需要の減退で苦戦しているものの、仮撚り加工糸(DTY)はトレーサビリティーも確認できる再生ポリエステル「&+」(アンドプラス)を使ったタイプが有名アパレルに採用されるなど販売が拡大した。同社の販売するポリエステル長繊維は3分の1がアンドプラスとなった。

 一方、TTTは依然として回復途上にある。エアバッグ基布は旺盛な販売が続いているが、原料価格の急激な上昇に対して、原料価格と連動する価格改定のタイミングが追い付かず、利益を圧迫した。衣料用途もポリエステル・綿混織物は主力のシャツ地が新型コロナ禍による需要減退で振るわず、綿花や薬剤、エネルギー価格の上昇と物流費の増加が利益を圧迫した。ポリエステル短繊維織物は主力市場であるインド、バングラデシュ、アフリカで新型コロナ禍によるロックダウンが相次ぎ、出荷が停滞した。

 TTSとTTTともに来期(23年3月期)は引き続き生産品種や用途の転換を進め、新型コロナ禍後の新たな需要構造への対応を進める。TTSは好調のDTYの拡販に取り組み、生産能力増強も視野に入れる。SDYはスポーツ衣料など表地向けに向けて複合紡糸など原糸開発を強化する。

 TTTはポリエステル・綿混織物の再構築を進める。ブランド向けシャツ地や学販シャツ地、ユニフォーム地など比較的安定した需要がある用途へのシフトを進める。ポリエステル短繊維織物はインド市場などの開拓を進め。ポリエステル長繊維織物は裏地だけでなくスポーツ衣料用途など表地の比率を高める。

 原糸から差別化したテキスタイル開発を強化すると同時に、世界的に要求が強まるサステイナビリティーやSDGs(持続可能な開発目標)への対応が欠かせない。TTTはサステイナビリティーを確保した「ベター・コットン・イニシアチブ」(BCI)認証、リサイクルが実施された製品であること証明する「グローバル・リサイクルド・スタンダード」(GRS)認証、労働環境なども含めたサステイナブル生産体制を証明する国際認証「エコテックス・ステップ」を取得している。

〈執行役員 在タイ国東レ代表 トーレ・インダストリーズ〈タイランド〉社長 松村 正英 氏/地理的優位性を生かす〉

 新型コロナウイルス禍を経て生活様式が大きく変化しました。在宅勤務の増加やビジネスウエアのカジュアル化でスーツ需要が減退し、その影響で当社の主力商品であったシャツ地や裏地の需要も減っています。このため人々の新しいニーズをとらえた高付加価値品を作る必要性が一段と高まりました。原燃料価格が高騰する中、価格転嫁ができる商品への転換も不可欠になっています。

 このため、TTTは定番シャツ地や裏地からユニフォーム地やスポーツ向け表地へと生産をシフトさせるなどポートフォリオ転換を進めています。新型コロナ禍で思うような営業活動ができない中、輸出拡大に向けて昨年はバングラデシュと香港にサテライトの営業拠点も開設しています。今年は欧州、ドバイ、インド、米国にも拠点を置くことを検討しています。

 TTSも内需とインバウンド需要向けが主力だった衣料用ナイロン長繊維でSPA向けや欧米向けの新規開拓を進めています。これは中国の東レグループ会社、パシフィック・テキスタイルズ・ホールディングスと連携したものです。

 タイは地理的にASEAN地域の中心に位置し、衣料分野だけでなく自動車分野などさまざまな産業が集積しています。インド市場へのアクセスにも優れます。TTSとTTTで原糸からテキスタイルまで一貫生産していることを生かし、スピーディーな開発や納期対応などでのクイック・レスポンスが可能なことに強みがあります。東南アジアや中国の東レグループ各社とも連携することで地理的優位性を発揮することを目指します。

〈マレーシア/高付加価値化を深化/ポリエステル・綿混織物事業の軸に〉

 マレーシア東レグループは、紡織加工のペンファブリック(PAB)、ポリエステル短繊維製造のペンファイバー(PFR)ともに新型コロナウイルス禍の前から推進してきた生産品種の高付加価値化をさらに深化させている。東南アジアや中国の東レグループ各社との連携も一段と深め、特にポリエステル・綿混織物事業の軸となる役割を担う。

 マレーシアでも新型コロナウイルスのデルタ株感染拡大などで2021年度(22年3月期)は生産要員の確保などで苦慮する時期があった。こうした中、PABは受注を堅調に確保し、生産力の最大化に力を入れた結果、新型コロナ禍前の約8割水準まで生産量が回復した。原燃料価格や物流費の高騰に対しても粘り強い交渉で価格転嫁を進めている。

 新型コロナ禍収束後に向けて、これまでも推進してきた高付加価値化・差別化を徹底し、業容維持と利益拡大を目指す。東レグループの特殊原綿を活用することでUVカットや汗染み防止、ストレッチなど機能素材を拡充し、日欧米市場に加えて中国内需に向けた拡販を進める。世界的にサステイナブル素材の要望が高まっていることから東レ本体やPFRと連携しながら再生ポリエステル「&+」(アンドプラス)を活用したテキスタイルを積極提案する。

 事業環境が厳しさを増す中、特にポリエステル・綿混織物事業は東南アジアの東レグループ各社と糸、生機、加工スペースを相互活用するなど効率的な生産・供給オペレーションに取り組む。販売面では欧州向けにポリエステル・綿混織物専任の販売責任者を置き、東レグループのポリエステル・綿混織物事業全体での販売拡大を目指す。

 PFRも21年度上半期は新型コロナ禍の影響で苦戦したが、下半期は稼働率も90%程度まで回復した。原燃料高騰に対しても販売価格への転嫁に取り組んでいる。サステイナブル素材への要望が高まっており、アンドプラスなど再生ポリエステルの拡大を進める。

 SDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みも強化した。PABは労働環境なども含めたサステイナブル生産体制を証明する国際認証「エコテックス・ステップ」をテキスタイル会社として世界で初めて取得している。省エネ設備への投資も実施し、“メード・イン・グリーン”を意識した経営をいち早く実践する。

〈執行役員 在マレーシア国東レ代表 トーレ・インダストリーズ〈マレーシア〉社長 テー・ホック・スーン 氏/徹底した新商品開発を推進〉

 新型コロナウイルス禍を契機としてワーキングスタイルが大きく変化し、東レグループのポリエステル・綿混織物事業が主力用途としてきたドレスシャツ需要が一段と落ち込みました。新型コロナ禍収束後には一部需要は回復するでしょうが、トレンドとして漸減傾向が続くでしょう。ポリエステル短繊維事業も原料高騰などコスト上昇が続く環境下で、さらなる差別化・高付加価値化の追求が試されています。

 紡績糸も新型コロナ禍の影響でASEAN地域のサプライヤーの生産能力が縮小した中で、新疆綿問題によってASEAN地域へ紡績糸需要が集中しています。新型コロナ禍による不安定な消費者心理は、SDGs(持続可能な開発目標)を背景とした健康・環境志向を加速し、機能素材や環境配慮素材の需要拡大へとつながっています。

 こうした中、織物事業についてはシャツ地からワークウエアやカジュアルなどへの用途転換を進めてきました。東南アジアの東レグループ各社から糸や生機を調達するグループオペレーションも拡大させてきました。東レグループのポリエステル・綿混織物事業の先駆者として、東レのテキスタイル・機能資材開発センターや繊維加工技術部、中国の東麗繊維研究所〈中国〉(TFRC)とも協業を推進し、徹底した新商品開発に取り組みます。開発成果をグループで共有し、ポリエステル・綿混織物事業全体の高付加価値化に貢献することを目指します。

 ポリエステル短繊維事業についても同様に、環境対応製品等、新製品開発に注力するとともに、リサイクル認証をはじめとするトレーサビリティーへの要請にも応えてゆきます。