特集 アジアの繊維産業(10)/東レのASEAN戦略/新たな価値創造へ/サステイナビリティーを追求

2022年03月30日 (水曜日)

 新型コロナウイルス禍によって東南アジア諸国も大きな打撃を受けた。デルタ株やオミクロン株による感染再拡大もあって、各国ともいまだ回復の途上にある。繊維産業を取り巻く事業環境も大きく変化する中、東レグループの東南アジア各社はポートフォリオの転換などに果敢に取り組み、アフター・コロナに向けた新たな価値創造に取り組んでいる。

 ASEAN主要6カ国(ベトナム、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシア)の当局発表によると、2021年の実質GDP成長率は全ての国がプラス成長となり、ベトナムを除く5カ国がマイナス成長となった20年からの回復が進む。ただ、回復の度合いは依然として不十分だ。

 例えばインドネシアは20年のマイナス2・1%に対して21年はプラス3・7%と回復が進んだが、マレーシアは20年のマイナス5・6%に対して21年はプラス3・1%、タイにいたっては20年のマイナス6・2%に対して21年はプラス1・6%の成長率しかなく、いずれも新型コロナ禍前の水準には回復していない。

 このため繊維産業を取り巻く環境も依然として厳しい。各国とも国内経済の悪化によって内需が減退し、感染者・濃厚接触者の増加による人員不足で工場稼働に苦慮するケースも少なくない。また、在宅勤務の普及などでライフスタイルが変化し、衣料品の消費構造も大きく変わった。

 こうした中、東レグループ各社は、環境の変化に対応するためにポートフォリオ改革に取り組む。例えばポリエステル・綿混織物事業のシャツ地やポリエステル長繊維織物事業の裏地などは需要減退が続く。このためユニフォームやブランドシャツ、スポーツ、メディカルなど新たな用途での需要開拓に取り組み、成果も出始めている。

 世界的にサステイナビリティーへの要求や、SDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みが一段と要請されるようになった。東南アジアの東レグループ各社も、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に基づき、環境配慮型素材の拡充や製造工程での二酸化炭素排出量削減など環境負荷低減に取り組む。

 例えばトレーサビリティーも確保した再生ポリエステル「&+」(アンドプラス)はインドネシア、タイ、マレーシアでの生産が本格化し、販売量も拡大した。さらに今後はリサイクルナイロンの生産も視野に入れている。労働環境なども含めたサステイナブルな生産体制を証明する国際認証「エコテックス・ステップ」の取得も進む。

 タイ、インドネシア、マレーシアに原糸・原綿、織布、染色加工、縫製まで一貫した生産基盤を持つ強みを生かし、グループ連携でサステイナビリティーの追求と新たな価値創造への取り組みが加速する。

〈インドネシア/原料から縫製まで一貫で/高付加価値品の開発急ぐ〉

 インドネシア東レグループに受注が戻りつつある。世界的に繊維製品の消費が回復に向かっていることに加え、新型コロナウイルス禍による事業活動への影響が限定的になってきたことも業容の改善につながっている。

 一方、利益面では厳しい状況が続く。製造原価や物流コストがこの1年で著しく上昇したためだ。

 来期(23年3月期)も価格転嫁を終えていない商材で値上げを進める。加えて原糸、原綿、生地、縫製品の高付加価値化も急ぐ。インドネシア東レグループは糸の原料である長・短繊維の開発から紡績、織布、染色加工、そして最終の縫製までインドネシア国内に全てのサプライチェーンがあることが強み。

 この強みを背景に風合い、多彩な機能付加、環境に貢献するサステナブル素材などさまざまな付加価値をインドネシア国内で付け、縫製品まで作る。取引先やその先の企業がどのような最終製品をどんな市場に売るかという商流まで見据え、東レグループ一貫生産による高付加価値の商材と生産オペレーションのアピールに力を入れる。

 合繊糸・わた製造のインドネシア・トーレ・シンセティクス(ITS)の22年3月期の売上高は前年比130%増となる見通し。世界の衣料繊維市場で需要が回復し売り上げを押し上げた。

 西村成伸ITS副社長は、「特に環境配慮した素材を使うトレンドが世界的に広がったことで「&+」(アンドプラス)のブランドで展開する再生ポリエステル繊維の販売量が大きく伸びた。」と振り返り、「東レグループだけでなく、欧米からも要望がある」と言う。環境関連の商材は引き続き需要が高いとみて、重点的に提案する。今年3月にはリサイクルナイロンの取り扱いも始める。

 紡織のイースタンテックス(ETX)は綿混シャツ地の輸出が主力。今期、新型コロナ禍で減った欧米を仕向け地とするトルコ、バングラデシュ、中国などの縫製拠点への供給が回復した。

 売上高は新型コロナ禍以前の業績水準に戻りつつあるが、利益面は厳しい。生産コストの上昇に加え、売上構成比率の9割が輸出のため、物流コストでも打撃が大きい。吉村暢浩ETX社長は「これまで1年間、価格転嫁を進めてきた」と振り返り「綿混、綿高混率の平織りに加え、ツイル素材やストレッチ織物といった高付加価値素材の開発と販売に力を入れる」方針を示す。

 紡織加工のセンチュリー・テキスタイル・インダストリー(CENTEX)は新型コロナ禍で受注が半減したが21年に入って需要が回復し、販売数量は19年度の水準にまで戻ってきた。

 来期も継続して受注が伸びると予想する。課題は製造と輸送コスト増に伴う価格転嫁。原料の値上がり分は今期に転嫁したものの、カセイソーダや輸送費の急激な値上がりにはまだ十分対応できていないという。

 高橋利幸CENTEX社長は「徹底的なコスト削減を継続するとともに、マレーシアやタイの東レグループと連携しながら商品の高度化を進め、インドネシア内販を強化する」方針を示す。

 紡織加工のインドネシア・シンセティック・テキスタイル・ミルズ(ISTEM)は主力のポリエステル・レーヨン混織物で新たな取引先や用途の開拓に取り組む。これまでアフリカのユニフォーム市場やインドネシアの官公庁制服向けの生地、ブラウス用の薄地の開発・販売で実績がある。

 アクリル紡績のアクリル・テキスタイル・ミルズ(ACTEM)は靴下や手袋向けの糸の需要が回復し、今期は前期比増収増益の見通し。

 梅木英雄ISTEM・ACTEM社長は、「原料高が続き、定番品の量の拡大では補えない状況で、より売価を上げられる高付加価値品への品種転換を進める。バルキー性のあるものや風合いで顧客に認められる新たな商材を開発する」方針を示す。

 縫製まで一貫のサプライチェーンでインドネシア各社の商材を活用するために役割が大きいのが縫製オペレーションを担うトーレ・インターナショナル・インドネシア(TIIN)。売上高の構成比は化学品などの非繊維が3割、繊維が7割だが、今期は繊維が不調だった。パートナーの大手SPAのインドネシアでの売れが芳しくないことが原因。

 塩村和彦TIIN社長はSDGsへの関心の高まりから「信頼がおける企業から素材を調達しようという顧客が増えている」とし「東レという確かなモノ作りの背景を強みに、生産の脱・中国を進めるアパレルに対して、インドネシア一貫生産による高付加価値品をアピールすることで反転攻勢を図る」考えだ。

〈在インドネシア国東レ代表 トーレ・インダストリーズ・インドネシア 社長 山本 浩房 氏/価格転嫁と生産の高度化を〉

 2021年のインドネシアの実質GDP成長率は、プラス3・7%と昨年のマイナスからプラスに転じました。政府の経済政策に加え、世界経済の回復に伴う石炭などの輸出の伸びが成長を支えました。新型コロナの感染拡大による企業活動への影響も20年に比べると限定的でした。

 こうした世界の経済情勢や事業環境の好転もあり、インドネシア東レグループの受注は回復に向かっています。ただ、原油、繊維原料、染色加工薬剤など多方面にわたりコストが急激に上がり、さらに物流費も上昇しています。昨年から順次、価格の転嫁を進めていますが、まだ追い付いておらず、今期も転嫁が大きな課題です。

 価格転嫁と同時に現地で作る素材の高付加価値化も急務です。価格勝負で“量”を追う汎用的な素材のビジネスは縮小し、東レグループならではの強みが生きる機能や高品質が求められる市場に向けた素材供給を増やす方針です。

 東南アジアの東レグループでは原綿から紡績、製織工程、さらに縫製して製品にまで一貫して作る体制があります。最終的に取引先、またさらに先の顧客がどんな商品を作り、どの市場に売ろうとしているのかといった商流を最後までたどって、アジア地域の東レグループとも連携しながら価値の高い素材を開発し、提案を強化します。

 そのために新型コロナ禍前から実施してきた生産の効率化、最新の製造機器の増設も引き続き進めます。東レグループ全体で見て、インドネシアで製造するメリットを最大限に引き出せる“生産の最適化”が今期のミッションになります。

〈トピックス/マレーシア東レグループ/新型コロナ対策基金に寄付〉

 新型コロナ禍の猛威が続く中、マレーシア東レグループは昨年9月、地域の医療施設支援のために、同社が立地するペナン州の新型コロナ対策基金に100万リンギット(約2700万円:発表時のレート)を寄付した。ペナン州の工業化計画を先導してきた中核企業として地域社会に対する役割を果たす。