特集 アジアの繊維産業(9)/わが社のアジア戦略/帝人フロンティア/“新型コロナ後”に向け基盤整備

2022年03月30日 (水曜日)

 東南アジアでも新型コロナウイルス禍からの回復が徐々に進みつつある。帝人フロンティアは衣料から産業資材まで幅広い分野で合繊糸・わたから織・編み物、染色加工、縫製まで一貫の開発・生産・販売体制を持つことを生かし、新型コロナ禍後に向けた基盤整備を進めている。

〈TPL、TJT/環境、低炭素、健康、安全が軸〉

 帝人フロンティアの衣料用・工業用ポリエステル長・短繊維の基幹工場であるテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)とテイジン〈タイランド〉(TJT)。2021年度は新型コロナ感染拡大で一部人員不足などにも悩まされたが、全体としてはフル稼働に近い水準を維持した。

 自動車関連用途は新型コロナ禍の影響による若干の下振れはあったものの、想定内の業績を確保した。衣料用を含めたその他主力用途も総じて堅調に推移した。新規用途開拓で成果があったほか、同社は輸出比率が高いためバーツ安効果もあって当初想定を上回る利益をとなる見通し。

 今後は「環境、低炭素、健康、安全」を軸にしたビジネスの重要性が一段と高まる。これら関連事業に経営資源を集中投下する。SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、エネルギー転換による石炭燃焼設備の撤廃、生産工程での環境負荷低減を進める。リサイクル原料製造設備とその原糸化設備の新設を進め、ポリウレタン代替となるポリエステルクッション材「エルク」の生産拡大も順次実施する。

〈テイジン・フロンティア〈タイランド〉/安定調達・生産体制を固める〉

 テイジン・フロンティア〈タイランド〉は主力の産業資材用繊維でサプライチェーン連携の強化に取り組み、安定調達・生産体制を強固にする。

 2021年度は自動車関連など産業資材用途の旺盛な需要もあり売上高は前年度比約40%増、新型コロナ禍前の19年度比でも約20%増で推移した。ただ、衣料用テキスタイルも含め年度後半には新型コロナ感染拡大の影響で協力工場の稼働率が一時低下。物流の混乱も慢性化しており、原材料調達の遅延が生産効率の低下につながっている。

 このため今後は各サプライチェーンの連携を一段と強化し、特に産業資材は安定調達・生産体制を固めることで安定供給を担保する。衣料用テキスタイルは機能素材を中心に拡販を進める。

 SDGsなど新たな社会的要請も高まった。帝人フロンティアグループの方針に基づく社内啓蒙活動や環境戦略「シンク・エコ」の目標達成への活動を推進する。

〈テイジン・フロンティア〈ベトナム〉/中北部への生産移管進める〉

 テイジン・フロンティア〈ベトナム〉の2021年度は、3カ月にわたってベトナム南部を中心に敷かれたロックダウン(都市封鎖)による工場稼働停止の影響を受け、衣料製品分野が全般的に苦戦を強いられた。現在も衣料製品分野の対日ビジネスは苦戦が継続している。一方、欧米向けビジネスは堅調を維持していると言う。

 22年度は、生産背景の再構築に取り組む。衣料製品の縫製工場の生産スペース確保や、品質・納期管理の面が不安定になっているためだ。製品だけでなく、ベトナムで加工した生地のベトナム国内販売の拡大にも臨む。

 原材料費や物流費の高騰が各社に打撃を与えている上、ベトナムではホーチミン近郊の加工料金が上昇傾向にある。そのため中部や北部の縫製工場への生産移管も進める。

 SDGs(持続可能な開発目標)については、「現実的にベトナムでは国としてまだ手付かずの状態」と言う。ただ、将来に備え、リサイクル素材の取り扱いなど環境配慮型ビジネスの構築を検討していく。

〈テイジン・コード〈タイランド〉/新商品開発・拡販を継続〉

 ゴム資材向けシングルエンドコード加工のテイジン・コード〈タイランド〉は、新型コロナ禍前から進めている新商品開発と拡販に取り組む。

 2021年度は業績も回復傾向になるものの、新型コロナ禍前の19年度の水準には若干及ばず推移。このため稼働率も80%程度で推移した。

 引き続き新商品の開発と提案による拡販に取り組む。SDGsへの取り組みなど新たな社会的要請への対応も欠かせない。

 溶剤処理加工の水系化やリサイクル原料への切り替えなどを検討し、製造工程での環境負荷低減や環境配慮型商材の開発に取り組む。

〈タイ・ナムシリ・インターテックス/グローバル販売拡大〉

 ポリエステル長繊維織物製造のタイ・ナムシリ・インターテックスは、織布・染色加工一貫の強みを生かし、グローバル市場での販売拡大に取り組む。

 2021年度は受注が回復傾向にあるものの、期前半での新型コロナ感染拡大の影響もあって苦戦した。このため22年度での巻き返しに向けて新規案件の獲得強化に取り組んでいる。

 スポーツ素材などを中心に世界的に環境配慮素材への要求が一段と強まっている。このため原糸生産を担うテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)との連携で原糸から染色加工まで一貫で環境配慮型素材の開発と販売を強化する。

 主力の日本向けに加えて、欧米アパレルやASEAN地域の新興アパレルへの提案に取り組み、グローバル市場での販売拡大を進める。欧米アパレルへの提案にはサステイナビリティーやSDGsへの取り組みも欠かせない。環境配慮素材の拡充に加え生産工程での環境負荷低減に取り組む。

〈テイジンFRAタイヤコード〈タイランド〉/新規需要取り込む〉

 タイヤコード製造販売のテイジンFRAタイヤコード〈タイランド〉は、ASEAN地域でさらなる業容拡大に取り組む。

 2021年度はナイロン66原糸などの供給不足や物流停滞など逆風もあったが、市販タイヤの需要好調や顧客認証・量産化の進展もあり、計画を上回る生産量で推移。このため21年度は前年度比60%増の生産量となる見通しとなった。物流停滞などへの懸念から需要家の間でサプライチェーンの見直しが進んでおり、新規需要が増加した。

 今後も顧客の間で現地調達やチャイナリスク回避の動きが続くと予想されることから、強みである多素材加工技術を強みにタイ国内とASEAN・インド圏の需要を取り込むことを目指す。SDGsに関しても帝人フロンティアグループの方針に基づきエネルギー転換や二酸化炭素排出量の削減に取り組み、サステイナブル素材・技術の開発にも継続的に取り組む。