特集 アジアの繊維産業(7)/インドネシア/ポストコロナに向けた胎動/アジアの日系企業に聞く/メルテックス/日清紡/ユニテックス/東洋紡/UTID

2022年03月30日 (水曜日)

 日本の繊維メーカーがインドネシアに進出して半世紀が立つ。かつてとビジネスの環境は大きく変わった。日本企業が汎用的な商材を作る時代は終わり、いかに現地で付加価値の高い商材を供給するかが生き残りの鍵となる。

〈経済は再び成長へ〉

 インドネシア経済は2020年に新型コロナウイルス禍の影響で1998年のアジア通貨危機以来、初めてGDP成長率がマイナスとなったが、21年は3・69%とプラスに転じた。国際通貨基金によれば22年は5・6%、23年は6・0%と再び成長軌道となる見通しだ。

 これを裏付けるように、現地の繊維・ファッション産業の商況も少しずつだが好転している。世界の衣料品消費の戻りも日系企業の業績回復を支える。中国、米国、欧州、日本といったそれぞれの市場で新型コロナ対策が浸透し、消費が回復に向かい、間接的にインドネシアの日系工場の業績回復につながっている。

 インドネシアは豊富な生産年齢人口や中国に比べて人件費が低いことから汎用的な糸、生地を大量に作る拠点としてこれまで存在感を発揮してきた。ところが、毎年5%の経済成長に伴い、最低賃金の上昇ペースが速まり、日系企業とってはいかに付加価値ある素材を現地で作るかということが事業存続の鍵となった。

 世界的な環境意識の高まりから、環境認証を取得する工場も相次いでおり、リサイクル素材の開発や生産工程における環境負荷の低減に向けた取り組みも活発になっている。

〈コスト増で値上げ不可避〉

 日系企業がインドネシアで作る商材の高付加価値化を急ぐ背景にあるのは、年々上がる人件費や中国や現地繊維メーカーの価格攻勢だけではない。この1年で製造や物流コストが急上昇し、利益が圧迫されるようになっており、新たに価値を付けることで、改めて汎用品と異なる価値、高品質をアピールし適切な価格への引き上げを訴求しようという狙いもある。

 今回、アンケートやオンライン取材で現地の日系繊維メーカーに課題を聞いたところ全ての企業がコストアップを挙げた。原油、綿花などの原料、加工薬剤、染料、人件費、物流――製造に関するあらゆるものが高騰し、売り上げが回復しても利益がなかなか上がらない企業もある。

 多くのメーカーが昨年から値上げに動いている。「順次、価格の転嫁を進めてきたが、今年も必要な転嫁を進める」(東レグループ)、「ここまで上がると価格の交渉はせざるを得ない」(ユニチカトレーディングインドネシア、UTID)。シキボウのメルテックスは「あらゆる面で自助努力の限界」と回答している。

〈メルテックス/環境素材提案を強化〉

 シキボウのインドネシア紡織加工会社のメルテックスは環境に配慮した糸の提案を強める。オーガニックコットンを使った糸や燃焼時の二酸化炭素発生量が少ない特殊ポリエステル繊維「オフコナノ」といった商材の販売量を増やす。

 オーガニックコットンでは「OCS」「GOTS」、再生ポリエステルではリサイクル製品の品質を認証する「GRS」、米綿の認証「コットンUSA」や繊維製品の安全性を認証する「エコテックススタンダード」も取得済み。こうした認証を強みに販促活動を進める。

 環境面での取り組みとしてはオフコナノを重点的に提案するほか、設備面では石炭からバイオマス燃料への切り替えを計画する。設立50年を経過しているため、機械の更新や省人化も進める。

 昨年9月に紡績工場内で発生した火災からの復旧を進めてきた。紡績は今年に入って再稼働した。市況が好転している影響で、当面は生産スペースが埋まっているようだ。ただ、火災前の生産力には戻っておらず早期の復旧を急ぐ。

 同社の主力は綿・ポリエステル混糸。用途はユニフォームやシャツといった衣料、シーツなどの寝装、産業資材向けまで幅広い。

〈インドネシア日清紡グループ/持続可能性認証取得へ〉

 インドネシアの日清紡グループは紡績・織布のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、縫製のナイガイシャツインドネシアの3社で構成する。

 インドネシア国内で紡績、織布、加工、縫製まで一貫して行う体制を生かすことで品質、納期、商品企画における競争力を高めシャツ、ユニフォーム、カジュアルの3分野で販売量を増やす。

 インドネシア日清紡グループの主力はシャツ・ユニフォーム用生地、およびシャツ縫製品。昨年からカジュアル分野への提案を始めた。2021年秋頃までは最盛期の70%程度まで生産量を落としていたが、同年11月以降から、市況の好転で“フル稼働”状態になっているもよう。

 今期(22年12月期)に入ってからも日本向けに加え、インドネシア国内への生地需要が堅調なため、22年6月までは稼働率が高い状態が続く見通し。

 ファッション産業で世界的に自然環境や人権への配慮が重視されていることを受け、新たに工場の持続可能性を証明する認証「エコテックスステップ」の取得を目指す。働き手の人権に関する認証「SA8000」も取得する意向。

 認証により、生地だけでなく工場そのものの価値を高める。

〈ユニテックス/収益構造の改革進む〉

 ユニチカグループの紡績子会社、ユニテックスで収益構造の改革が進んでいる。2021年12月期の業績は売上高が減ったものの増益となり、前期から黒字転換した。

 同社は、不採算だった先染め織物の製造と生地の加工から20年に撤退した。紡績事業に特化する構造改革で利益が改善した。現地のアパレルの売れ行きが好転したことで、ユニチカトレーディングや現地アパレルへの糸の供給が堅調だったことも今期の業績を支えた。

 ユニテックスの主力はポリエステル短繊維を綿でカバリングした衣料用機能糸「パルパー」。用途は作業服、企業用ユニフォーム、ドレスシャツ、カジュアルシャツなど。

 同社は今年9月で創業50周年を迎える。錘数は3万3千錘で、21年秋以降の稼働率は80~90%の状況が続く。今期(22年12月期)もUTID向けの販売量を増やし、現地アパレルなどで新たな取引先を増やすことで業績の改善を加速させる。

 そのためにパルパーのさらなる高付加価値化を急ぐ。現地の商社であるUTID、ユニチカテキスタイルと連携しながら“環境”を付加価値とした商材などの開発を進める。

〈東洋紡グループ/素材から縫製まで一貫〉

 インドネシアの東洋紡グループの業績が新型コロナウイルス禍による悪化から回復へと向かっている。2021年12月期は化成品、繊維事業ともに前期より復調し当初予算を上回った。

 繊維事業はニットシャツ地、ニットシャツ製品OEMが日系向け、欧州ブランド向け、インドネシアアパレル向けで底堅く推移した。ビジネス・ドレスシャツの市況は良くないものの、得意とするニット素材で織物からの置き換え需要を取り込んだ。

 今期も繊維事業では業績の改善を見込む。衣料品ではインドネシア市場がさらに好転し、ニット製品の需要増につながると予想する。自動車分野でもニット地の資材としての採用が増える見込み。

 素材から縫製品まで一貫して東洋紡グループで行う商流を拡大させる。日本向けでは学校体操服、病院の患者着、ゴルフウエア、スポーツ衣料などで東洋紡グループの付加価値のある素材を使い、インドネシアで縫製するビジネスモデルを増やす。

 東洋紡インドネシアグループは販売・事業統括の東洋紡インドネシア、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア、縫製のSTGガーメントで構成する。

〈UTID/高付加価値の糸・生地を〉

 ユニチカグループのユニチカトレーディングインドネシア(UTID)が、取り扱う糸・生地のバリエーションを増やしている。

 同じグループでインドネシアの紡績会社、ユニテックスと連携し、機能糸「パルパー」を中心に販売する商材を増やしてきた。近年、日本のユニチカトレーディング(UTC)から調達する機能糸を使う生地の品ぞろえも充実させている。

 高遮熱クーリング機能の「こかげマックス」、蓄熱保温機能の「サーモトロン」、吸放湿ナイロン「ハイグラ」といった機能糸をUTCグループで調達し、インドネシアで生地にしてベトナムなどの日系縫製工場や現地アパレルに供給する。

 最近ではユニテックスが、パルパーに再生ポリエステルを使った商材を開発したり、工場として環境認証を取得したりしており、“環境”という付加価値に焦点を当てた商材も充実してきた。

 商社の強みを生かしながら多様な糸・生地をそろえ、現地の協力工場で製造し、日本のスポーツブランド、企業向け制服、学校スポーツウエア、現地企業ユニフォーム、シャツアパレルといった用途で新たな顧客の開拓を目指す。