特集 アジアの繊維産業(2)/対談/東南アジアにおける生地生産の今/一村産業 社長 藤原 篤 氏×ユニチカトレーディング 社長 細田 雅弘 氏

2022年03月30日 (水曜日)

 素材メーカー系商社は東南アジアでの生地生産に力を入れてきた。東南アジアも新型コロナウイルス禍の影響を受けているが、素材メーカー系商社の取り組みは遅滞なく続けられている。日本ならではの高品質を特徴とする生地を現地でいかに生産するか。それをどのように縫製へとつなげるのか。一村産業の藤原篤社長、ユニチカトレーディングの細田雅弘社長に東南アジアにおけるモノ作りの課題、市場への期待などについて、語り合っていただいた。

〈染色技術の向上課題/技術指導の体制が鍵〉

  ――東南アジアにおける取り組みの現状をお聞かせください。

 藤原氏(以下、敬称略)当社の海外展開はテキスタイルのみで、縫製を行っていないのが特徴です。1990年代の後半に海外生産をスタートさせました。インドネシアでの中東輸出用生機の生産が始まりです。その後、2012年ごろから海外生産に本腰を入れます。ちょうどベトナムが注目を集めた時期に重なります。

 ベトナムでの生産は13年からスタートしました。現在は北陸産地とインドネシア、ベトナム、中国の4極で糸や生機の生産、染色を行っています。インドネシア、ベトナムは紡績糸生産が拡大し、ベトナムではユニフォーム用の生機生産が増えてきました。21年度はユニフォーム用生機の生産が19年度比50%増となる見通しです。また、中国は合繊長繊維が大幅に増えました。ただ、生産比率を見ると、国内が圧倒的です。15年から海外生産が伸びてきましたが、現在も金額ベースで70%を国内が占めています。

 東南アジアでの生産は19年度までベトナムが右肩上がりを続けていました。量産を開始した15年度に比べると3~4倍になりました。新型コロナ禍で苦戦に転じ、20年は約3分の2に落ち込みましたが、21年は対19年比で約20%増に戻りました。インドネシア生産は回復が遅れています。中東市場が芳しくない上、人手不足と物流混乱の影響を受けています。

 細田氏(同)衣料繊維事業の海外調達比率は25%前後です。コロナ禍以前は中国が50%を占め、ベトナムは30%でしたが、コロナ禍後はこの比率が逆転し、中国が30%、ベトナムが50%を超えるようになりました。当社は中国・北京、インドネシア、ベトナムに販売子会社があり、インドネシアにユニテックスという紡績拠点があります。インドネシア子会社はスポーツ素材の供給拠点として14年に設立しましたが、収益的に苦戦が続いていました。20年にユニテックスの構造改革も実施しましたが、それに伴い、内販用の先染織物は外注に切り替え、販売機能をインドネシア子会社に移管しました。その効果もあってインドネシア子会社も収益は改善しました。ユニテックスも構造改革効果で、コロナ禍ながら安定した生産を行っています。

 13年に設立したベトナム子会社はユニフォーム関連を主力に事業展開しています。現在、日本人3人、現地スタッフ12人の体制で運営しています。日本人の内2人は技術者です。収益は安定していますが、ユニフォーム以外を掘り起こせていないのが課題です。

  ――東南アジアでの生地生産における難しさをどのように感じていますか。

 藤原 調達金額ベースで見ると、海外生産する生地が30%で、インドネシア、ベトナムで23%を占めます。ただ、染色は96~97%が日本です。工程が長く、管理が難しい染色は東南アジアでの技術レベルがなかなか上がりません。生地に求められるストレッチ性や繊細な質感が上手く再現できていない。その解決が大きな課題です。一方、紡績や織布の品質問題は抑えられています。

 細田 東南アジアで生産するのは差別化糸を使った生地が多く、導電糸はじめ現地調達が難しいものは日本から輸出しています。染色も現地企業とタイアップしています。ベトナムでのユニフォーム関連は縫製まで行うケースも多いのですが、今のところ、染色での大きな品質トラブルは顕在化していません。昨年、ベトナム・ホーチミンにグローバル開発センターを稼働させました。現地企業に技術者を派遣し、技術指導を行っていることも寄与しています。もちろん、難度が高い加工は日本で行っています。

 藤原 当社も技術者を派遣しているのですが、出張ベースです。コロナ禍後はそれができなくなりました。それが染色での停滞に結び付いていると考えています。リモートで技術指導していますが、色合い、風合いなどカバーできない部分があります。紡績や生機の東南アジア生産を拡大し、協力工場が増える中で品質問題は発生しましたが、その後は減少し、仮にあったとしても小さなトラブルで抑えられてきました。ただ、染色は2~3社との協業にとどまっています。増やしたいのですが、コロナ禍で中断を余儀なくされています。

〈経営トップとの関係重要/サステイナブル対応も必要〉

  ――東南アジアで現地企業に委託生産する上でのポイントは何でしょうか。

 藤原 生地作りでは現地企業の経営トップと話し込めるかどうかが重要です。そうしないと、細かな対応はしてくれませんので、コアになる企業を持つ必要があります。そして需要が落ちたからと言って発注量を簡単に減らすようでは取り組みが続きません。工賃の高い発注者に流れるだけです。例えば試織して量産にならないのは通用しません。量産できない理由をしっかり説明するなど細かい対応が必要です。¥文字(U+2196)

 細田 中国も同じですが、ベトナムも信頼関係の構築が重要になります。即断即決できる人をいかにつかめるか。

 藤原 技術的な支援も重要です。技術者が常駐し、技術指導に当たらせることで、信頼も得られました。必要なパートナーだと考えてもらえた。そうした関係を構築できるか。できなければ安定した生産体制は築けません。現地にある生地を選んで買うだけになってしまいます。

 細田 そうした関係を構築する上で、現地企業への資本参加も考えているのですか。

〈拠点融合で独自ノウハウ/RCEPも追い風にして〉

 藤原 設備投資の支援は行っていますが、資本参加も検討しています。染色では省力化投資やデジタル技術で企業を変革するDXなどの投資も課題ですね。そうなるとプロセスの見える化が進みますので、染色段階の課題解決にもつながるとみています。

 細田 当社も現地企業との連携を強める上で資本参加も検討する時期にあると考えています。また、DX化による効率生産に加えて、重要なのがサステイナブルへの対応です。環境配慮型の素材を生産するだけでなく、当社が関わるサプライチェーン全体でサステイナブルを意識した取り組みができていないと、最終需要家に認められなくなる時代がいずれやってきます。特に欧米向けにビジネスをする上で、環境配慮型の生産体制でなければ採用されなくなります。

  ――さらに東南アジア生産は増えていくのでしょうか。

 藤原 当社は現地での一貫生産にこだわっているわけではありません。ベトナムにはインドネシアから紡績糸、中国からポリエステル長繊維を供給しています。今後も各工程を強い国で行い、4極生産を組み合わせることで、それぞれの生産が増えることはあるでしょう。また、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)はわれわれのようなサプライチェーンを形成する企業にとって有利に働くと考えています。4極生産を組み合わせて生地作りをブラックボックス化し、独自ノウハウで勝負できます。一カ所で生産すると、現地企業にまねされる可能性もありますから。

 細田 ベトナムは加工基地として非常に重要ですが、インドネシア、中国、ベトナムをうまく融合させながら、グローバル開発センターが中心となって、どのような組み合わせで特徴ある生地を開発できるかは課題です。そこで強みを発揮しビジネスを広げていきたいですね。現地需要はもちろん、対欧米を含めてグローバル市場にどう対応するのかも検討していきます。その際、RCEPも追い風になります。中国や東南アジアは生産拠点であるだけでなく、マーケットも大きい。特に中国、インドネシアでは内販ビジネスをどうやって伸ばすかも大きな課題です。

 藤原 東南アジアでの内販はまだできていません。今後の課題です。一方、東南アジア、特にベトナムでは繊維企業の設備投資意欲が旺盛です。新技術導入にも積極的です。技術レベルは上がってくるでしょう。日本でできないようなことでも挑戦し技術確立しています。例えば経糸紡績糸の織物をウオータージェット織機で織っています。染色でも新しい染色機が必要だという点を説明すればトライしてくれる企業は多い。ベトナムでは韓国、台湾、中国資本による進出が中心でしたが、昨今はトルコなど投資する国が増えています。可能性を感じますし、そこから内販の道が広がってくると思います。

  ――原燃料高騰により製造コストや物流費が急騰していますが、東南アジア生産への影響をどうみていますか。

 藤原 22年は今の状況が続くことを前提に事業戦略を考えます。東南アジアで生機を生産し、日本で染色する手法は厳しくなるでしょう。生機が届かないということもありますので、物流ルートの変更も必要です。ストックオペレーションをどう組み立てるかも課題です。各国でストック機能を持つことを考えねばならないかもしれません。

 細田 今が常態になると、価格転嫁しか道はありません。価格転嫁を認めてくれるかどうかは価値ある商品、サービスを提供できているかどうかになります。物流費の高騰に対しては現地での一貫生産しか対応策が今のところありません。

〈インド市場にも期待/外・外ビジネスを拡大〉

  ――今後、東南アジアに何を期待していますか。

 藤原 先ほど申し上げたように設備投資意欲が旺盛で技術レベルは間違いなく上がっていくでしょう。これを踏まえると、それぞれの国に開発拠点を構える必要があると考えています。インドにも注目しています。生産拠点としても有望です。実は当社の販売先の中で中国、韓国に続くのがインドです。中東民族衣装向けトーブ地を応用したシャツ地が中心です。市場がありますので、生地作りを進めます。既に紡績糸の生産に着手していますが、新型コロナ禍で織布以降は中断しています。

 細田 グローバル開発センターが機能し始めました。この機能を活用してビジネスを拡大していきます。そして海外生産・海外販売のビジネスも拡大します。日本向けは海外販売先の一つというグローバル目線で考えたい。当社の強みは差別化糸です。例えばユニテックスで生産する複重層糸「パルパー」を東南アジアでどのように拡大するか。あるいは、ポリエステル長繊維の差別化糸をどう現地で調達するかということも考えます。昨年、シキボウさんとの企業間ビジネス連携を発表しましたが、現地企業との連携も進めていきます。