不織布新書22春(4)/ポリエステル短繊維/原料高で値上げ/短繊維不織布に打撃/小山化学/宇部エクシモ/ダイワボウレーヨン/帝人フロンティア

2022年03月18日 (金曜日)

 短繊維不織布の主要素材であるポリエステル短繊維。その原料となる高純度テレフタル酸(PTA)、エチレングリコール(EG)価格が上昇する中で、ポリエステル短繊維の値上げが相次ぐ。

 PTAの原料となるパラキシレン価格(指標とされる韓国輸出価格)は1年前に比べて約6割高。これに連動する形でPTA価格(指標となる中国輸出価格)も急騰する。2021年1月に1トン当たり約650ドルであったものが、22年2月(速報値)は約840ドルと5割強も高騰した。EG(同)も21年1月の約570ドルから22年2月(同)に約680ドルまで上がった。特に昨年末からの上昇が大きい。

 これを受けて、国内の合繊メーカーもポリエステル短繊維の値上げに踏み切った。帝人フロンティアは21年12月出荷分から1㌔当たり40円、東レは22年1月出荷分から20~40円、クラレも同出荷分から現行比10%、ユニチカは22年3月出荷分から40円と各社が大幅な値上げを打ち出した。東レとユニチカは21年春に続く2度目となる。

 製造コストに占める原料比率が高い短繊維不織布メーカーは悲鳴を上げる。「値上げが通らないようなら供給を止めるという強い姿勢だったため、受け入れざるを得なかった」と言うところは多く、ある短繊維不織布メーカーは「極論だが」と前置きしながら「製品転嫁が生死の分かれ目になる」と危機感を募らせている。

〈差別化品で新用途開拓/小山化学〉

 再生ポリエステル短繊維製造大手で、日本バイリーン子会社の小山化学(栃木県小山市)は自動車資材以外の新用途開拓、機能性わたの強化に取り組む。2021年度(21年12月期)からの3カ年計画で掲げる課題で「この1年間で種まきはできた」と鈴木馨社長は手応えを示し、今期中には本格化し、23年度に自動車以外の比率を30%に高める。

 同社は使用済みペットボトル、フィルム屑などを原料(一部バージン原料も)に現状、月1千トン弱の再生ポリエステル短繊維を製造販売するが、主力の自動車資材向けを維持・拡大しながら、アパレル、インテリア、フィルターなどの用途を強化する。

 その上で強みとするのが再生原料使いというサステイナビリティー性と染色加工が不要となる原着による環境負荷低減だ。さらに芯鞘、サイド・バイ・サイドなどの複合や異形断面、機能剤の練り込みなど差別化わたも生産できる。これらを小ロットで対応できる点も生かして、新用途開拓に取り組む。環境対応策の一環で今夏にはリサイクル製品の「GRS」認証も取得する予定だ。

 形状がシャープな十字断面なども完成しつつあるなど自社開発を強化するほか「さまざまな企業から案件が持ち込まれている」と言う。開発強化の一環として、今春ベトナム、スリランカ出身の高度外国人材も採用する。

〈フィルター用途に攻勢/宇部エクシモ〉

 宇部エクシモは各種不織布用原綿を販売している。性質の異なる2種類の樹脂を使用したコンジュゲート繊維「UCファイバー」をはじめとする高付加価値品・高機能品をそろえており、2022年度(23年3月期)はこれらの商材を軸に産業用フィルター用途などで拡販を狙う。

 UCファイバーは使用目的により親水、撥水(はっすい)、かさ高、抗菌、難燃、伸縮性といった機能の付与が可能だ。用途も紙おむつや生理用品などの衛生材料から生活関連用品、貼付剤基布をはじめとするメディカル関連まで幅広い。

 来年度は産業用フィルター分野での拡販に力を入れる。エアフィルターと液体フィルターの両用途で提案を強化する。エアフィルター用途は繊度が2・2~6・6デシテックスのステープルを軸に、エレクトレット化などで機能を高める。

 液体フィルターは繊度が1・7デシテックス、もしくはそれ以下のショートカットファイバーを湿式不織布用途に展開する。ストレートタイプに加え、クリンプを付与したグレードも用意する。

〈先端の環境配慮技術も導入/ダイワボウレーヨン〉

 ダイワボウレーヨンはレーヨン短繊維を高品質と機能性、さらには環境配慮も両立する不織布原綿として打ち出しを強める。先端のリサイクル技術やカーボンオフセット制度の導入も積極的に進める。

 新型コロナウイルス禍を背景に世界的に除菌シートなどの需要が拡大したことで同社のスパンレース不織布向けレーヨン短繊維販売も堅調に推移している。同社のレーヨン短繊維は原料や製造工程の工夫によって高白度を実現していることなどへの評価が高い。

 近年、世界的に環境配慮への要求が高まり、欧州を中心に“脱プラスチック”の動きも強まった。これを受けて同社では撥水(はっすい)機能レーヨン「エコリペラス」を衛生材料用途などに提案する。親油性もあることからワイパー材としても可能性がある。

 H&M財団と香港繊維アパレル研究所(HKRITA)が取り組むポリエステル・綿混素材のリサイクル技術開発にも参画した。分離・回収した綿パウダーを練り込んだレーヨンを開発し、「RDセル」としてHKRITAと共同で商標申請した。カーボンオフセット制度も導入し、4月からカーボンニュートラルレーヨンの販売を開始する。

 こうした革新的なレーヨンを不織布用途にも投入する。

〈再生ポリなど販売強化/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは、生活資材や衛生材料、自動車関連といった分野にポリエステルわたなどを販売している。2022年度(23年3月期)は衛生材料分野での拡販に加えて、乾式不織布用の極細ポリエステルわたの本格展開などに注力。21年度の実績を超える販売数量を狙う。

 同社短繊維素材第一部の強みの一つは再生ポリエステルわたにある。リサイクルの技術と知見を積み重ね、バージンと変わらない繊度や品質を持つ製品が提案できる。環境への意識が高まる中、販売数量は増え、現在は全体の半分弱を占める。「再生繊維使用によるCO2削減効果のデータを開示」し、一層の販売拡大につなげる。

 拡販を狙う衛生材料分野ではポリエステルとポリエチレンの芯鞘構造繊維を投入する。乾式不織布用に提案する0・1デシテックスの極細ポリエステルは顧客の要望に応じてカスタマイズする。

 課題は原燃料・原材料価格高騰。自助努力で吸収できる範囲を超え、採算が悪化しており、「4月以降に値上げを実施する可能性もある」とした。