不織布新書22春(3)/東レ/生産・販売で相乗効果/差別化と環境対応を重視/不織布・人工皮革事業部門長 西村 誠 氏

2022年03月18日 (金曜日)

 東レは2020年度(21年3月期)から3年間の「中期経営課題“プロジェクト AP―G 2022”」で、不織布と人工皮革の強化を繊維事業の重点課題の一つに位置付ける。ともに成長分野・成長領域でのグローバル事業拡大、サステイナビリティーへの対応による事業拡大、ビジネスモデルの高度化に取り組み、両者のシナジー発現も目指す。西村誠不織布・人工皮革事業部門長に21年度の見通し、中経最終年度に当たる22年度の課題について聞いた。

〈不織布は値上げが課題/人工皮革で増設を検討〉

  ――21年度(22年3月期)の業績見通しはいかがですか。

 不織布事業は衛生材料向けのポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)、ポリエステルSB「アクスター」、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維「トルコン」などで構成しています。

 最大規模のポリプロピレンSBは韓国のトーレ・アドバンスト・マテリアルズ・コリア(TAK)を中心とする海外生産ですが、今期は増収減益となる見通しです。アジア各国でのグローバルオペレーションにより韓国、中国、インドネシア、そしてインドの各拠点はほぼフル稼働に近いのですが、原料価格の上昇を吸収し切れていません。

 20年度はマスク用の需要急増もあって稼働率は高かったのですが、それも一巡しました。紙おむつ用は出生率の伸び悩みなどから中国では需要が頭打ちの状況にある一方、増設が相次いだこともあってポリプロピレンSBは供給過剰にありますので、中国での生産は需給バランスを考慮して対応していきます。

 アクスターは中国、米国の工業用フィルター向け輸出が回復し、増収増益となる見通しです。フィルターの交換需要が活発でした。アクスターは昨秋に約30%増強を行いました。1平方メートル当たり20、30グラムの低目付にも対応できる新ラインを導入したのですが、21年度第3四半期でフル稼働しています。

 トルコンは増収も利益は横ばいです。主力用途の中国の火力発電所用バグフィルター向けが回復しました。中国ではばいじん規制がさらに強化される動きにあり、当社独自の細繊度わたなどの投入が寄与しています。

  ――人工皮革「ウルトラスエード」事業はいかがですか。

 ウルトラスエードは20年度から自動車内装材向けの拡大が続いています。日系ではスバル「BRZ」、トヨタ「GR86」、さらに中国の好調な新興EVメーカーである「NIO」など採用車種が広がっています。実は半導体不足による自動車の減産を懸念したのですが、全体的には採用車種への影響は少なく、好調に推移しています。

 インテリア用も回復基調です。新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要増が寄与しているようです。コンシューマーエレクトロニクスも堅調でした。これらが衣料、靴、雑貨などの分野の苦戦を補っています。21年度は増収増益の見通しです。生産設備はほぼフル稼働していますので、次の増設も検討しています。

〈不織布も付加価値化/新商品で利益率向上〉

  ――22年度の課題は何でしょうか。

 不織布ではポリプロピレンSBが原燃料高を吸収し切れていません。単純な値上げも難しい用途ですので、細繊度や低目付化などによるソフトタイプなど高付加価値化を図りながら、価格転嫁を進めます。また、紙おむつは地産地消が求められますので、衛材メーカーと連携しながら海外での需要増にいかに対応するかも課題です。

 アクスターは約40%を占める工業用フィルター向けの他、国内の建材用も堅調に推移していますが、既にフル稼働ですので、今後は高性能化を図りながら利益率を向上していきます。フィルター向けでは新製品も投入する予定です。環境対応が求められていますので、既に開発済みのポリ乳酸(PLA)SBの提案も強化します。

 ただ、直近は原料価格の上昇を吸収し切れていません。昨年末に打ち出した値上げの浸透にまずは取り組みます。

 トルコンは主力の石炭発電用バグフィルター向け以外の開拓に取り組みます。トルコンと耐炎繊維の複合「ガルフェン」もその一つです。難燃・遮炎素材として航空機用シートに採用されていますが、さらに拡大を図ります。トルコンでは細繊度わたを生かして薄膜ペーパーによる用途開拓にも取り組みます。同じく耐熱性が特徴のフッ素繊維「トヨフロン」はバグフィルター向け以外に摺動性を生かした用途探索を進めます。

  ――滋賀事業場(大津市)に導入したSB開発設備の活用はいかがですか。

 滋賀の設備で開発した新技術はTAKなど海外の生産拠点に導入し、付加価値化を図っていますし、今後もその方針で進めます。

  ――現中期経営課題では引き続き長短総合不織布事業を掲げています。

 関係会社の日本バイリーンとの連携など短繊維不織布メーカーとの協業により、今後も長短総合不織布事業の確立に取り組んでいきます。

〈環境対応人工皮革を強化/30年ごろバイオ100%も〉

  ――ウルトラスエードの課題は何でしょうか。

 ウルトラスエードは環境対応型をさらに強化します。現在、基布である不織布の再生ポリエステル化、部分バイオポリエステル化やウレタンの一部バイオ化などによるウルトラスエードをラインアップしています。既に全販売量の80%が環境対応型となっています。現在、最も要望が強いのはフィルム屑などを活用した再生ポリエステル使いですが、30年ごろにはバイオポリエステル100%使いもラインアップする予定です。

  ――苦戦する衣料用についてはどのようにお考えですか。

 欧州メゾンや高級アパレルはブランド力があり、他業界への影響も大きいので、引き続き重視していきます。これまでもウルトラスエードの新商品開発は衣料用が先行し、それを応用し車両用に広げてきました。

  ――20年6月に不織布事業とウルトラスエード事業を統合して不織布・人工皮革事業部門となりました。相乗効果は生まれていますか。

 同じ不織布でも、製品は全く異なりますが、同じ用途もあります。例えばガルフェンやトヨフロンと工業用人工皮革である「エクセーヌ GSフェルト」などは対象業界が共通します。その意味では担当者が関連する全商品を取り扱うことで、それぞれの販売拡大につなげるという相乗効果を発揮していきます。もちろん、製品の複合化なども進めていきます。

〈高目付のポリエスSB/アクスター〉

 ポリエステル100%スパンボンド不織布。高目付品を得意とし、工業用フィルター向けを主力とする。その他、盛土補強・防草シートなどの土木農業資材、ハウスラップ基材の建築資材などにも使用される。昨今は低目付品も生産しており、包装材など生活資材にも用途を広げる。ポリ乳酸(PLA)など植物由来原料使いも商品化する。

〈難燃性と遮炎性を両立/ガルフェン〉

 難燃性と遮炎性を両立した高機能不織布。ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維と耐炎繊維を複合化する。優れた遮炎性能を発現させることで、反対側にある可燃物への引火を防ぐ。遮炎することで熱の伝達も低減する。不織布だけでなく、ペーパー、織物を含めて最終用途に応じてカスタマイズできる。主力は航空機シート用。

〈エンプラ原料の耐熱繊維/トルコン〉

 ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維。耐熱性に優れた熱可塑性エンジニアリングプラスチックを繊維化した。融点285℃。190℃の連続使用が可能。酸・アルカリ・有機溶剤に強く、LOI値(限界酸素指数)34という難燃性もある。主に石炭火力発電用のバグフィルターに使われる不織布の原料になる。

〈工業用人工皮革/エクセーヌ/GSフェルト〉

 工業用人工皮革。ゴム、フェルト、発泡体などの他素材にはない機能性と厚みのバリエーションを持つ。高機能素材としてAV・OA機器、カメラ、PCパーツなどから半導体・工業設備の工程材料など幅広い分野に使われている。

〈ハイブリッド人工皮革/ウルトラスエードヌー〉

 天然皮革の銀面調の光沢とスエードタッチを兼ね備えたハイブリッド人工皮革。ウルトラスエードの持つ通気性やストレッチ性、イージーケア性や良好な発色性や、加工性などに加え、従来とは異なる質感を持つ。ファッション衣料、インテリア、カーシートなどに採用されている。