不織布新書22春(2)/合繊/不織布値上げ相次ぐ/進捗次第で収益に影響/ユニチカ/旭化成/東洋紡/三井化学

2022年03月18日 (金曜日)

 合繊メーカーなどの不織布値上げが相次いでいる。昨春、東レと独・フロイデンベルググループのフロイデンベルグ・スパンウェブ・ジャパン(大阪市中央区)によるポリエステルスパンボンド不織布(SB)が先行したが、昨年後半から各社が価格改定を次々と発表。公式表明はなくとも個別に値上げを行う企業もあり、今、値上げ交渉は佳境にある。

 原料価格の推移を見ると、ポリプロピレンSBや同メルトブロー不織布に使用するポリプロピレン樹脂(プラスチック用とは異なる繊維グレード品)は「上下動はあるものの、1年前に比べ20%弱上昇した」(SBメーカー)と言う。ポリエステルSBに使用するポリエステル樹脂の原料である高純度テレフタル酸は1年前に比べて50%強、エチレングリコールは20%弱も上昇した。

 原料に加え、燃料費、物流費も高騰し収益性を圧迫する中で、各社は昨年後半から相次いで値上げを打ち出した。実施時期は今春からという企業が多いものの、果たして値上げ幅、時期がどのあたりで落ち着くのか。不織布は原料価格が製造コストに占める比率が高い(販売価格が低い)だけに、値上げがどこまで浸透できるかは事業の収益性に大きな影響を与える。その進捗(しんちょく)次第で各社の不織布事業の明暗が2022年は分かれそうだ。

〈ポートフォリオを転換/ユニチカ〉

 ユニチカはポリエステルスパンボンド不織布(SB)、コットンスパンレース不織布(SL)「コットエース」を展開しており当面、昨年10月から着手した値上げの浸透に全力投球する。

 コンクリート養生用の湿潤養生シート「アクアパック」や熱成型SB「マリックスAX」、太繊度糸使いのフィルター向け「ディラ」のような高機能原反の開発・販促にも重点を置く。

 いずれも市場における認知度向上が進んでおり、「それぞれの販売量を年間数100トン規模に引き上げられる」との手応えを示す。

 今後も、これらに続く高機能不織布のラインアップを充実させSB事業のポートフォリオ転換を急ぐとともに、コストダウン、経費節減などを改めて強化し「定番品の競争力を引き上げたい」考えだ。

 インバウンド需要に多くを依存してきたコットエースは苦戦を続けており、未開拓だったゾーンに参入するための新商品開発を改めて強化する。

 新型コロナウイルス禍で変貌した市場は収束後も「元には戻らない」と見通しており、次の成長戦略を検討するため昨年1月に若手を中心とするプロジェクトをスタート。早急に中長期戦略にまとめ2023年度からの次期中期3カ年計画で実践に移す。

〈ポリプロさらに差別化/旭化成〉

 旭化成は紙おむつ用ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)の差別化品開発に力を入れる。

 主要生産拠点であるタイ子会社、旭化成スパンボンドタイ(AKST)は細繊度タイプ「エルタスファイン」、親水性タイプ「エルタスアクア」など差別化SBをそろえるが、中国を中心にアジア地域で生産能力が拡大するなど競争は激しい。その中で「高品質と安定供給がポイントになる。品質の中には開発も含まれる」(及川恵介スパンボンド衛材営業部長兼AKST社長)とみる。

 AKSTは新型コロナ禍の影響で少し遅れたが、3号機(1万5千トン)が今月中に本格稼働する。3号機は「よりソフト性を追求した品種も製造できる」仕様。試運転でサンプル出荷を行い、現在は需要家段階で評価を進めている。

 平行して急激な原燃料価格の上昇に伴う価格転嫁も進める。原料のポリプロピレン樹脂だけでなく、物流費も急騰する。AKSTは日本向けを含めた輸出比率も高いだけに影響が大きく「値上げせざるを得ない」としている。

 東南アジアの同SB需要については「数年前ほどの勢いはないが、年率4~5%成長する」と見通す。特にインドネシアやベトナムでの需要拡大に期待。その中でSMS(SBとメルトブロー不織布の複合タイプ)とは異なる点と差別化SBを武器に競争を勝ち抜く。

〈吸音材でのスペックインを強化/東洋紡〉

 東洋紡はポリエステルのスパンボンド不織布(SB)で、2022年度は自動車用吸音材向けに開発した「サウンドブロックネオ」のスペックインを強化するとともに、ペットボトル再生ポリエステルSB「エコボランス」の販売を伸ばす。

 サウンドブロックネオは極細メルトブロー不織布を貼り合わせた2層構造の原反。吸音が難しい低周波の雑音を効率的に吸音する。

 EV化の浸透に伴い低周波を取り除きたいニーズが高まると見通しており、自動車メーカーへの売り込みを強化し早期スペックインを目指す。

 不織布業界でも「エコへのニーズが高まってきている」とみており、再生原料70%使いのエコボランスを打ち出すとともに100%使いを早急に完成させる。

 SBに特殊コーティングを施し軽さ、丈夫さ、通気性に優れるトノカバー向けの「カテナ」がこのほど欧州の自動車メーカーに初めて採用された。「大きな一歩」に位置付けており、欧州での販促を改めて強化していく。

〈産業用途を成長の原動力に/三井化学〉

 三井化学は、産業材料用途を原動力に不織布事業の成長を図る。メルトブロー不織布(MB)を積極展開する方針で、子会社のサンレックス工業で2023年4月に稼働する新ラインは2、3年でフル生産を目指す。スパンボンド不織布(SB)も産業材料へのシフトを加速する。

 産業材料用途は、19年4月に発足した産材開発室が基点となってフィルターや自動車、土木資材といった用途の開拓を進めてきた。大学や企業との共同研究が進展するなど、成果が健在化している。今後も新商品開発と新分野参入に注力する。

 MBの新設備では極細繊維銘柄の「シンテックスnano」などを生産し、精密フィルターをはじめとする用途に提案する。販売が順調に推移すればもう1ライン増設もあり得るとした。

 衛生材料分野は、昨年に中国の製造・販売会社の事業譲渡を行い、生産を日本とタイに集中した。21年度の販売は堅調に推移し、22年度以降も柔軟高強度不織布「エアリファ」や伸縮不織布を中心に伸ばしていきたいとしている。