特集 事業戦略(3)/クラボウ/潜在ニーズ掘り起こす/「独自技術」「知財」「共創」が柱/取締役兼常務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏

2022年03月03日 (木曜日)

 クラボウの繊維事業部は、「独自技術」「知財戦略」「共創ビジネス」を柱とした事業戦略を加速させ、消費者の潜在ニーズを掘り起こす“面白い商品”の開発と提案に取り組む。アップサイクルシステム「ループラス」によるアパレルや産地との連携も拡大した。熱中症対策スマートウエア・システム「スマートフィット」への注目も高まる。サステイナビリティーに加えて、デジタル技術などをキーワードに繊維事業の利益拡大を目指す。

  ――2021年度(22年3月期)もあとわずかです。

 繊維事業は第3四半期(21年4~12月)決算でも営業損失でしたが、赤字幅も縮小するなど改善傾向が続いています。新型コロナウイルス禍の影響で落ち込んでいた受注も徐々に戻っており、それによって国内外の工場稼働が回復したことが効いています。デジタル技術を導入したスマートファクトリー化で小ロット生産でも生産能力が高まるなど成果も表れ始めました。一方、綿花やエネルギー、染料・薬剤価格の高騰で打撃を受けています。ベトナムでのロックダウン(都市封鎖)で協力工場の生産が滞ったことも痛かった。海上物流の混乱も含めて調達・出荷でマイナスの影響が出ています。

 原糸は産地の需要回復が遅れていますが、特徴のある糸の販売は回復しています。このため子会社の大正紡績(大阪府阪南市)の商況は悪くありません。裁断くずなどを反毛原料にして、紡績糸にアップサイクルする「ループラス」も注目が高まっており、引き合いが増えました。

 ユニフォーム地は流通在庫の整理も進んだことで堅調です。定番品の販売量は減少していますが、新商品や別注品でカバーしました。サステイナブル素材への関心も高まっており、環境配慮素材群「エコピース」や、伊藤忠商事と取り組む再生ポリエステル「レニュー」を使った商材も採用が決まり始めています。

 カジュアル素材は、新規取引先の開拓で成果が上がり始めました。ここでもループラスへの関心は高く、製品回収への引き合いもあります。デニムは輸出が好調です。海外市場では新型コロナ禍から経済正常化に向かう中で“リベンジ消費”が本格化しており、高級ジーンズの需要も回復してきました。ただ、物流停滞が問題です。

  ――22年度は黒字浮上が目標となります。

 提案価値を高めることが必要です。新型コロナ禍で消費が低迷する一方、家計が保有する資産額は過去最高を更新しています。これが消費に回るためには“面白い”商品が必要です。当社も含めて繊維業界は従来、“ムダ”を排除した開発を進めてきました。しかし、“ムダ”から面白い商品が生まれるケースもあります。そこで、もっと面白がって開発に取り組むことを進めています。

 もう一つは、消費者の潜在ニーズを掘り起こす商品開発ができるかがポイントです。そのために改めてこれまでの開発シーズの棚卸しもして、その組み合わせで面白いものができないか考えなければなりません。その際、「独自技術」「知財戦略」「共創ビジネス」が戦略の柱になります。例えば、ループラスや「スマートフィット」などがそれに当たります。伊藤忠商事との連携も具体化しています。東京で展示会も開催しましたが、かなりの来場者がありました。

 そして「デジタル」「サステイナビリティー」「人材」がキーワードです。このためテキスタイルイノベーションセンター(TIC、愛知県安城市)も従来の工場スマート化の開発だけでなく、人材育成や営業面でのデジタル化のための開発も担うようにします。

  ――来期から新しい中期経営計画がスタートする予定ですが、各事業の重点ポイントは。

 原糸は原料改質による機能糸「ネイテック」の新しい製造ラインも稼働しますから、TICも含めて研究開発を強化します。ループラスも今治産地や奈良靴下産地、播州織産地との連携が始まりました。そのほかにも新しい取り組みが始まる予定ですから、産地間連携をどれだけ広げることができるかがポイント。ユニフォームは備蓄アパレルとの取り組みを進めながら、電気分野の国際規格に対応した制電生地「エレアース」や難燃素材「ブレバノ」、パンツ一体型サポートウエア「CBW」など職種のニーズをくみ上げた開発と提案に重点的に取り組みます。スマートフィットとの連携も次期中計の中で進めます。カジュアル素材は短納期対応が重要。そしてニッチな部分でもびっくりするような商品を作りたいと思います。