現場の「環境対策」だけでいいのか/ミレニアル世代への情報発信急げ

2020年01月16日 (木曜日)

 昨年はファッション業界で「環境対策」の劇的変化が起こった。弊紙「繊維ニュース」でもサステイナビリティー(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)の見出しが躍り、各社の取り組みを紹介した。しかし、国内ファッション企業の発信力は、欧米の企業よりも劣っているとの指摘がある。中でも環境問題に敏感な「ミレニアル世代」への訴求が鍵を握る。(市川重人)

 昨年12月、スペインの首都マドリードで行われた国際会議「COP25」の関連イベントで登壇した16歳(当時)の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんは「世界の指導者の裏切りを許さない」と怒りのスピーチをした。温室効果ガス削減量の2重カウントや削減量の海外移転を受けての発言だった。

 2000年代に社会進出したミレニアル世代と、1990年代後半以降に生まれたZ世代は、世界的にも人口比率が高く、現在の消費をリードする存在だ。両世代とも10歳前後で地球温暖化や気候変動を学校で習い、スマートフォンが身近で“デジタルネーティブ”という側面がある。SNS(会員制交流サイト)を駆使し、迫りくる気候危機の情報を共有している。

 以前、取材に応じたファーストリテイリングでサステイナビリティーを統括する新田幸弘グループ執行役員は「(ミレニアル世代は)服の素材調達や生産プロセスにも関心を持っている」と答え、ブランドが支持される理由として「早期の環境対策」と明言した。

 ワールドの上山健二社長も「若年層のマインドは所有からシェアに移行している」と話し、服の廃棄を「彼らは許してくれない」と続けた。同社はここ1~2年でバッグの定額レンタルや服の二次流通、オフプライスストアといった「在庫を出さない」新業態に挑戦している。

 ミレニアル世代に人気の英ブランド「ステラ・マッカートニー」は、「環境対策は壁紙や什器(じゅうき)にまで及んでいる」(同ブランドの担当者)と話す。いち早く毛皮・皮革・羽毛の使用を止めたことで知られるが、再生繊維の共同開発や同ブランドの環境負荷を数値化した「環境損益計算書」をウェブサイトで公表している。

 店舗で使用した木材は全てFSC(森林管理協議会=持続的に管理してている森林から伐採)の認証を受け、壁紙は再生紙を採用している。また、アンティークのソファーやテーブルを配置。スチール製の什器は簡単に取り外すことができ、再利用も可能だ。

 ミレニアル世代に向けた環境対策やステートメントを提示しているLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)や、「グッチ」「バレンシアガ」を擁するケリング、さらにグローバルSPAのインディテックスは、同世代の支持を受け、世界的にも売り上げが堅調。ファーストリテイリングも環境対策の内容を頻繁にアップデートしている。

 伊藤忠ファッションシステムで世代別のファッションや消費動向を分析する小原直花ナレッジ室室長は「ミレニアル世代は、自分にとって“心地良い”かどうかが判断基準になる。社会での協調性をそれほど重視しない」と指摘する。

 価値を認めれば所有に動くが、「(上辺だけの環境対策は)簡単に見透かされる。自分に必要か吟味し、消費もするが無駄なモノは買わない」と続ける。環境対策とその情報発信はセットで考えた方が良さそうだ。彼らの感性に訴えかけるブランド価値も必要になっている。