トーク 談 とーく/「商いの次世代化」を推進/元気あるカンパニーに/伊藤忠商事 常務執行役員 繊維カンパニープレジデント 諸藤 雅浩 氏

2019年08月05日 (月曜日)

 伊藤忠商事繊維カンパニーの2018年3月期純利益は298億円だった。今期は史上最高となる330億円を目標に掲げる。これまでの投資の成果を発現させ、サステイナビリティー(持続可能性)商材の充実などによる原料起点のバリューチェーン構築、オムニチャネル対応などで「商いの次世代化」を進め、目標達成を狙う。4月にプレジデントに就任した諸藤雅浩常務執行役員に戦略を聞いた。

  ――プレジデント就任後約4カ月が経ちました。改めて所信と抱負を聞かせてください。

 繊維カンパニー全体が元気を出すようにしていきたい。当カンパニーの業績、特に指標とする純利益は近年、特別損失計上など特殊な期を除いては基本的に右肩上がり。しかし、いずれの期も期初計画は達成できていません。未達が続いていることで社員が自信をなくしているように見えます。

 元気を出すために何をしていくのか。今は、“手ぶら”では競争に勝てない時代です。ライクラ社への投資、デサント株の買い増し、クラウドファンディング大手、キャンプファイヤーへの出資などを進めてきました。これらを社員が“武器”にして、前で戦えるような状況を作り、元気を取り戻す。それが私の仕事だと考えています。

 前期だけでも大型の投資案件が相次ぎました。その成果を早く着実に発現させながら、次の投資も考えていきます。

 投資の際に気を付けるのは、“遠い”ところにならないこと。当社と親和性があり、既存事業とのシナジーが期待でき、仮にそこが調子を落とした際にはすぐに伊藤忠が修復に向かえるようなところへの投資であるべきです。地に足の着いた投資ということです。

  ――社内的にはまず元気を出したい。一方、社外に対してはいかがですか。

 社内が元気であっても、社外から嫌われるようではだめです。社員に言っているのは、まずはお客さんに好かれる人にならなくてはいけないということ。顧客が問題を抱えた時や次のステージに向かいたいと考えたときに「伊藤忠に聞いてみよう、相談してみよう」とならないといけない。それがわれわれ商人の原点。もちろん気合いと根性だけでなく、正しいアドバイスができないとだめ。そのためには常日頃からしっかり勉強しておかなくてはいけません。

  ――米中貿易摩擦など内外の経済情勢は厳しさを増しています。

 中国の商品を米国に直接販売するケースはそれほど多くありません。従って直接の影響は現時点では少ない。ただ、この問題が長引けば、内需の減速など中国経済自体がダメージを被る恐れがある。そこへの懸念はありますね。当社が提携する波司登国際(ボストン)、安踏体育用品(アンタ)や、伊藤忠繊維貿易〈中国〉(ITS)の内販事業に心配が出てきます。幸いまだその兆しはありませんが。

  ――消費増税に関しては。

 期待も込めてですが、今回は2%のアップなのでそれほど大きな影響はないだろうとみています。ただし、デリバリーの早期化や、子会社の小売り事業では、増税後のポイントアップの準備などを進めています。

  ――実店舗で衣料品が売れずネットでは売れている。生産面でもデジタル化が著しい。こうした産業構造の変化を、商社の繊維ビジネスという立場からどのように捉えていますか。

 このままリアルの店舗が減り続け、全てがネットに置き換わるとは全く思っていません。ただし、ネットの台頭は現実であり、この流れを無視することはできません。当カンパニーが力点を置くのはネットとリアルの融合。この研究を外部とも協力しながら進めたい。2年前には社内にネット専門の部署も設けて研究を続けていますし、ジョイックスコーポレーションを筆頭に各事業会社のネット販売比率も高まってきています。時代の変化に対してきちんと方向性は見定められてきていると実感しています。そもそも商社にとって構造変化はチャンスですしね。

  ――「商いの次世代化」をテーマに据え、ファッション・アパレル分野では「原料起点のバリューチェーン構築」を目指しています。

 例えば「H&M」は2030年に再生可能素材の比率を100%にすると宣言しています。当社もこの間の川上投資によって、サステイナブル(持続可能な)などさまざまな切り口の原料を供給できる体制が構築できてきています。当社では最近、「未来よし」というメッセージをよく使いますが、この考え方はまさにサステイナブルに合致する。フィンランドのパルプ製造大手、メッツァグループ、日本環境設計、ライクラなどとの連携による原料起点のビジネス拡大が期待できますし、再生ポリエステル素材の新ブランド「レニュー」は9月にパリで開かれる「プルミエール・ヴィジョン・ヤーン」に初出展します。

 ただ、原料をそのまま販売するケースは少ないと思います。原料を起点にしながらも、メイン商材は最終製品になります。これまで整備してきたアジアでの縫製基盤が生きてきますし、日本の産地の高付加価値素材との取り組みも広がるはずです。

 商社として「固定」は避けるべき。その時々に合ったものを時代に応じて供給していく。それが、当社が考える原料起点のバリューチェーンです。

  ――ブランドマーケティング分野の「オムニチャンネル戦略」の進展と今後は。

 ライセンスビジネスだけで大きく利益を伸ばせる時代ではなくなっている。新しいビジネスモデルが必要です。例えばクラウドファンディングはその一つ。大手のキャンプファイヤーに出資しましたが、ここでは単なるファンドではなく、商品開発やその販売も含めて新たなビジネスモデルが構築できつつあります。

 会員制ブランドEC(電子商取引)サイトのミレポルテへも出資しました。ここでもネットとリアルの融合などを進めていきます。消費行動の変化に合わせてわれわれも変わっていかなければなりません。それが商いの次世代化です。

  ――今期純利益330億円達成に向けて課題と自信をお聞かせください。

 18年度が298億円だったので、実力ベースで300億円までは来ています。あとは30億円をどう積み上げていくか。前期に幾つかの大型投資を行いましたので、その成果を出していかなくてはいけません。デサントに関しては、企業価値の向上を第一義に置いて、それを業績拡大につなげたい。課題の中国市場ではウエアだけでなくシューズも含めて開拓を狙いたいですね。

 エドウインは苦戦を強いられていましたが、ブランド力を今一度高め、発展につなげたい。若い人たちが「かっこいい」と感じるようなブランディングが必要だと考えています。三景はアパレルパーツの会社ですので、グループ全体で連携体制を強めたい。良いものを安く提供することが基本です。「コンバース」は好調。今半上期もけん引役の立場です。薄利多売ではなく引き続きブランド価値の向上を図りながら、付加価値化や単価向上にも取り組んでいきます。

 海外ではこれからも有力な戦略的パートナーシップ先を探し、逐次投資を進めていきます。

 もろふじ・まさひろ 1983年慶應義塾大商学部卒、伊藤忠商事入社。主に輸入繊維畑を歩き、2004年ライカ社長、08年ブランドマーケティング第二部長、10年ブランドマーケティング第一部門長、14年執行役員、16年繊維カンパニーエグゼクティブバイスプレジデント、17年常務執行役員、19年4月より現職。59歳。