特集 アジアの繊維産業Ⅰ(2)/わが社のアジア戦略/東レの東南アジアにおけるグローバル戦略/商品・商流高度化で総合力

2018年03月28日 (水曜日)

 東レは2017年度から3カ年中期経営課題「AP―G 2019」を実行している。基本戦略の一つが“グローバルな事業の拡大・高度化”であり、「AE(アジア、アメリカ、ヨーロッパ、新興国)プロジェクト」の推進。繊維事業でもアジア・新興国での事業拡大で中核的な役割を担うことが期待されているのが東南アジア。タイ、インドネシア、マレーシアに原糸・原綿から織布、染色加工、縫製までの一貫生産能力を持つことを生かし、強いサプライチェーンの構築を進める。

 「AP―G 2019」では、最終年度となる19年度に海外売上高を1兆5千億円まで高めることを計画する。このため成長国・地域での積極的な事業展開を進め、海外事業全体でAEプロジェクトを推進している。

 アジア・新興国では中国と並んで東南アジアの役割は大きい。所得水準の上昇に伴い購買力も高まることで、東南アジアは生産拠点であると同時に、巨大な市場としての大きな存在感を持つことになる。これは衣料品だけに限らず、自動車関連資材や衛生材料など幅広い分野に当てはまる。

 一方、東南アジア地域の経済成長は、人件費の上昇などによるコストアップ、現地通貨の為替レート上昇による輸出競争力の低下などを必然的に引き起こす。このため東南アジア事業も生産品種の高付加価値化やサプライチェーン全体での競争力発揮など総合力が必要不可欠。そのために商品・商流の高度化を加速させている。

〈ポリエステル・綿混織物事業の中核拠点に〉

 東レにとって東南アジア拠点はテキスタイル、特にポリエステル・綿混織物の生産と販売で中核的役割を担うことになる。このほど中国合弁会社だった東麗即発〈青島〉染織股¥文字(U+4EFD)(TJQ)の経営権を合弁先の即発集団に移管した。中国でのコストアップや東南アジア縫製需要の拡大が要因だが、これにより東レはポリエステル・綿混織物に関して東南アジアに経営資源を集中させる。今後、東南アジアに短繊維テキスタイルの研究開発拠点を新設する構想もある。

 元々、東南アジアの各拠点はポリエステル・綿混織物などテキスタイル生産・販売で豊富な実績を持つ。今回の事業再編で、その役割は一段と高まったと言えよう。東レの繊維事業にとって東南アジアでのグローバル戦略の重要性が一段と高まっている。

〈インドネシア/素材の高付加価値化進む/生産コスト削減が課題〉

 インドネシア東レグループの各社は、これまで進めてきた素材の高付加価値化と新規販路開拓など商流改革に取り組む。日本、中国、東南アジアの東レグループ各社との連携を強め、素材から縫製品までのグローバルな供給体制で事業拡大を図る。

 インドネシア・トーレ・シンセティクス(ITS)は17年度、総じてインドネシア国内の衣料品市況の悪さが影響し、主力の内販向け長繊維・短繊維事業が苦戦した。

 18年度、ナイロン長繊維では紡糸機に改造を加え、細繊度の糸の製造を可能にするなど、商材の高付加価値化を進める。ポリエステル長繊維ではポリマー複合による特品化を進めるとともに、生産効率を上げる。

 一方、スクリーン印刷用のポリエステル長繊維販売は堅調。日本から生産品の一部をインドネシアに移管したことで益率が改善。自動車向け樹脂販売も好調に推移する。

 ポリエステル・レーヨン混紡織加工のインドネシア・シンセティック・テキスタイル・ミルズ(ISTEM)は、主力の中東民族衣装向けが長引く在庫調整で苦戦が続く。

 そこで、18年度は、中東以外の新分野への供給拡大を狙う。アフリカ、中南米、ニュージーランドでストレッチや軽量化といった機能性生地を、パンツ、ユニフォーム、学生服用途で提案する。

 アクリル紡績のアクリル・テキスタイル・ミルズ(ACTEM)は、日本のSPA向けは堅調だが、高級衣料用素材でアクリル・ウール混がウール100%素材に押され、商況は厳しい。18年度に向けてアクリル100%で特徴ある素材開発に力を入れる。コスト削減と同時に、台所マットなど非衣料分野の拡大にも取り組む。

 ポリエステル・綿混紡織加工のセンチュリー・テキスタイル・インダストリー(CENTEX)は売上高は前年並みだが、コスト削減が進み増益で推移する。日欧の衣料品の市況低迷で商況は厳しいが、グループのペンファブリック(PAB)と連携を強め、適地生産、適地販売により拡大を図る。染色工場の増設に取り組んでおり、染色加工能力を現在の1・5倍まで高める計画。PABから一部の生産品を移管し、高付加価値化を進めるとともに、インドネシア縫製のQRを強める。

 ポリエステル・綿混織物のイースタンテックス(ETX)はトルコ、バングラデシュ、インドネシア、中国、日本に幅広く販路を持つ。今期は原料価格の上昇による影響が大きく、18年度に向けては価格転嫁が急務である。特品化にも力を入れており、一部の織機の入れ替えや生産合理化を進め、売り上げの3割程度を特品にする計画。東レグループ各社と連携し、縫製品までを結び付けたビジネスモデルを目指す。

 ポリプロピレンスパンボンド製造のトーレ・ポリテック・ジャカルタ(TPJ)は紙おむつ用素材がインドネシア国内向けで好調。今後、日本の不織布事業部とTPJ、ITSが連携して、スパンボンドの新たな商流を模索する。

 トーレ・インターナショナル・インドネシア(TIIN)は大手SPA向けの縫製品事業が順調。今後、インドネシア国内の協力工場を活用し、生地から縫製品まで一貫した生産体制を構築していく。

〈在インドネシア国東レ代表 トーレ・インダストリーズ・インドネシア 社長 福田 康男 氏/グループ連携で業績拡大へ〉

 インドネシアの経済情勢を見ると2017年の実質GDP成長率は5・07%と昨年に続き5%台を維持しました。11年から5%台を割ったのは15年のみで安定した成長が続いています。

 もう一つ景気の動向として参考になるのが年間の自動車販売台数です。一度は落ち込みましたが15~17年は少しずつ増えつつあり、景気の回復がうかがえます。ただ、国内の衣料消費は低調で繊維産業への波及は弱いのが現状です。

 こうした中、東レグループのインドネシア事業全体では、18年3月期業績は前期比増収増益となる見込みです。

 自動車用樹脂販売、紙おむつ用の不織布、TIINの素材から縫製品までのサプライチェーンを活用したビジネスが好調です。半面、衣料用原糸・原綿・生地販売は総じて苦戦しました。インドネシア国内や仕向地での衣料品市況の悪さや中国や現地メーカーの低価格攻勢、原料や生産コストの上昇が影響しました。特に中東の民族衣装用生地の市況が低迷しています。トーブ地の生産に関わる部署は軒並み悪化しました。

 18年度は引き続き商品の高付加価値化と東レグループの連携によるビジネス構築がポイントになります。従来のような単純な糸・生地販売ではなく、最終製品を見据えた提案と販売を進めます。グローバルに展開している原料から最終製品までの一貫型事業に、グループ各社がコンバーティング機能を生かして連携し業績拡大を目指します。

〈タイ/原糸から縫製まで総合力/高付加価値品開発が加速〉

 人件費上昇やバーツ高を背景にタイでの定番品生産は競争力を失いつつある。このためタイ東レグループ各社は定番品の生産を縮小し、生産品種の高度化を進める。販路開拓にも力を入れ、東南アジア地域での原糸から縫製までの総合力を発揮する。

 ポリエステル、ナイロン長繊維製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)はバーツ高による輸出採算低下や輸入糸との競争激化に対応するため、事業の将来構想を踏まえた規模適正化、設備高度化に取り組む。高付加価値原糸の販売拡大に加え、関心が高まる環境配慮素材として再生原料やバイオ原料の活用を進める。汎用品の削減、機能性を持った高付加価値品をユーザーのニーズにマッチさせることで販売拡大も目指す。人件費上昇などコストアップに対しても生産効率化に取り組む。

 ポリエステル・レーヨン混紡織加工のタイ・トーレ・テキスタイル・ミルズ(TTTM)は国内市況に勢いがなく輸出も中東向けの不振とバーツ高で苦戦したが、国内ユニフォーム向けで新規受注を獲得。ニットも日本向けや米国向けは拡大した。今後に関してもタイ国内で官需・民需ともにユニフォーム用途での拡大を進め、ストレッチ品や特殊原綿使いによる軽量素材、ソフトな風合いの新素材などの開発に力を入れる。ニットも高付加価値品開発で日米向けの拡大を目指す。

 紡織加工のラッキーテックス〈タイランド〉はバーツ高もあって2017年度は輸出比率の高いポリエステル・綿混織物、ポリエステル短繊維織物が苦戦も長繊維織物やエアバッグ基布が好調で減収ながら増益で推移している。固定費削減も成果を上げた。「AP―G 2019」では、体質強化を目指してポリエステル・綿混織物やポリエステル短繊維織物の新商品開発と新商流開拓に力を入れる。拡大する東南アジア縫製への織物販売を強化すると同時に、短繊維事業を中心にインド市場の開拓にも取り組む。

 トーレ・インターナショナル・トレーディング〈タイランド〉の縫製品事業は日本や米国向け受注が堅調だったことで17年度は比較的好調だった。タイ国内向けは価格面で苦戦するが、一方で、高機能化のニーズが高まっており、これを商機と捉える。また、縫製はコスト面からタイ以外の周辺国に移り、素材供給源としてはベトナムの存在感が増す。このため東南アジア全域を網羅したサプライチェーンの構築を重視する。環境対応商品の開発・拡販にも取り組む。

〈在タイ国東レ代表 トーレ・インダストリーズ〈タイランド〉 社長 高林 和明 氏/繊維は出口戦略を強化〉

 タイは2017年のGDP成長率が3・9%と好調であり、今後も3~4%の成長率が予測されています。観光や自動車が経済をリードし、自動車生産台数は200万台近くまで拡大しました。1人当たりGDPも6300㌦となり、今後も拡大が見込まれます。

 こうした経済の好調を背景にバーツ高が進み、輸出産業の採算は悪化しています。さらに原料価格の上昇も悪影響を及ぼしています。「中進国の罠」という言葉が示すように、もはやタイは安い労働力を前提とした労働集約型産業が成り立たなくなっており、タイ政府も「タイランド4・0」を掲げ、産業の高度化・高付加価値化を進めています。こうした動きに東レグループも貢献したいと考えています。

 17年度から中期経営課題「AP―G 2019」がスタートしました。事業環境が厳しい中、18年度以降の成長軌道を確実にする取り組みを進めています。繊維は出口戦略を強化し、原糸から高次加工、縫製品までの一貫型事業の拡大に取り組みます。さらに、炭素繊維、水処理、医薬・医療など新しい事業の拡大も目指します。三井製糖と共同出資したセルロシック・バイオマス・テクノロジーもウドンタニで膜利用糖化プロセスの実証工場を建設中で、今年中に稼働予定です。

 タイの地に根ざした事業経営のためには、ローカル社員の登用や教育にも一層、力を入れていかなければならないと考えています。

〈マレーシア/特品素材の開発推進/最終製品の価値最大限に〉

 ポリエステル短繊維製造のペンファイバー(PFR)は機能などで特化した縫製糸・衣料用繊維を主力とする。売り上げの大半が中国、ASEANを仕向地とした輸出によるもの。近年、東南アジアに展開する東レグループとの連携を強めており、原綿から縫製品までの一貫生産の一翼を担う。

 2017年度4~12月期業績は主力の商材の売れ行きが堅調で、通期は増収増益となる見通し。近年、取り組んできた最終製品を意識した原綿の特品化やグループと垂直連携した素材供給が好業績の要因。

 来年度も素材の高付加価値化に取り組む。原綿を1・1デシテックス以下の細繊度にして、生地の風合いを改善できる原綿や、ポリマーを改質しカチオン可染や難燃性を付けた原綿、さらにペットボトルをリサイクルした再生ポリエステル原綿などを既に開発しており、特品の幅が広がっている。

 マレーシアのポリエステル・綿混素材の紡織加工を手掛けるペンファブリック(PAB)をはじめ、グループがASEANに展開するサプライチェーンや関連工場への特品原綿の供給を増やす。東レの原綿から縫製品まで一貫生産体制の中で、最終製品の付加価値を最大限に引き上げる素材開発を進める。

 PABの17年度4~12月期業績は売り上げが過去最高水準、利益は原料価格や生産コストの上昇で前年並み。米国向けのシャツ用途は市況の低迷で苦戦したが、欧州向け企業ユニフォーム地、日本向けのカジュアル用途の拡大で補った。

 来期は引き続き特品素材の供給を増やすとともに、縫製事業にも力を入れる。これまでにもマレーシアなど東南アジアの縫製工場を使ってユニフォームOEMを始めており、欧米・日本向けで拡大を目指す。

 インドネシア縫製の生地生産の一部をQR強化のため、インドネシアのCENTEXに移管する。移管分の生産キャパシティーは新たにスポーツ・アウトドア衣料、かばんや車両用資材、ボトム地といった新たな分野での増産に充てる。

〈在マレーシア国東レ代表 トーレ・インダストリーズ〈マレーシア〉 社長 河村 雅彦 氏/グループ連携を深める〉

 2017年度のマレーシア東レグループ全体の業績は2年連続の増収増益で2000年代に入って売り上げ、利益ともに過去最高水準にあります。

 マレーシアの繊維事業が今なお堅調な背景には、1973年の進出以来、継続して事業構造の変革を続けてきたことがあります。現地の労賃も新興国に比べれば高く、拠点を置くペナンは人が集まりにくくなっています。そうした環境の変化に対応すべく、生産の高度化とコスト削減を進め、省人化対策として早くからITを使った生産管理や自動化を進めてきました。20年前に比べると従業員1人当たりの生産性は10倍近くになっています。

 東レグループがアジアに展開するグローバルな生産オペレーション、サプライチェーンでマレーシアは中国と東南アジア、欧州を結ぶ要衝であり今後も重要な役割を担います。

 PAB、PFRのミッションは、商材の特品化、高度化を徹底的に進めるということにあります。世界市場からすれば当社の供給量は少ないが、その中で事業を拡大していくために特徴のある素材を開発し、最終消費者にとっての価値を意識したモノ作りを目指します。

 その実現のためには世界に展開するグループ各社との連携を深化させ、東レの垂直統合型のグローバルなサプライチェーンの末端までを意識しながら、異なる市場に向けて自らが何をすべきか、あるいは売るためにどこと組むべきか、こうしたことを常に念頭に置いて動くことが重要です。