特集 アジアの繊維産業Ⅰ(13)/わが社のアジア戦略

2017年09月14日 (木曜日)

〈日清紡テキスタイル/染色品質さらなる向上へ〉

 日清紡テキスタイルにとって、インドネシアは主力生産拠点だ。紡織子会社のニカワテキスタイルインダストリーと染色加工子会社の日清紡インドネシアを持ち、織物を一貫生産している。

 インドネシアで生産した生地の80%は日本向け。日本向けの商況は「そう悪くない」(日清紡テキスタイルの馬場一訓社長)。課題は、20%のインドネシア国内と第三国向けをいかに拡大するかということ。そのために同社が重視していることの一つが、日清紡インドネシアの染色品質のさらなる向上であり、欧米向け拡大を狙うには、これが欠かせないと馬場社長は指摘する。一方のニカワテキスタイルは、コスト競争力の一段の向上が課題だ。

 シャツ地については、インドネシアのシャツアパレルと組んで、インドネシア国内向けと欧米向けの生地販売拡大に取り組んでいる。インドネシア国内向け販売は、同国の複数のシャツアパレルと組んで行っており、2、3年前に増加し始めた。加えて昨年から、欧米向けシャツを縫製している大手工場3社と組み、欧米向け輸出にも注力している。

 同国には、ドレスシャツ縫製の、ナイガイシャツインドネシアと、デニム製造のマラカサリ日清紡デニムインダストリーもある。ナイガイシャツインドネシアの業績は堅調。マラカサリ日清紡デニムインダストリーへの日清紡の出資比率は50%弱で、合弁パートナーの方がマジョリティーを持っている。日清紡の製造拠点としてはあまり活用してこなかった。しかし、これまで「日本のデニム」であることを評価して買っていた米国の顧客が、コストを重視する方針を打ち出しているため、同合弁も今後積極的に活用する。

〈東亜紡織/ベトナム生産を高度化〉

 トーア紡グループの東亜紡織は、ベトナムの合弁工場ドンナムウールンテキスタイルでポリエステル・ウール混スーツ地を中心に生産する。川上産業が未発達のベトナムで、梳毛紡績から製織、整理加工まで一貫生産できる強みを持つ。

 縫製基盤があるベトナムではリードタイムの短縮や関税フリーのコストメリット創出を目指して素材の現地調達に対する要望が高まる。これに対し、快適性を付与する機能加工対応でモノ作りを高度化し、差別化要素を高める。

 中国合弁のグループ企業で梳毛織物製造販売の常熟東博紡織から技術やノウハウを移し、既に保有している設備で一部、2018年度(18年12月期)から家庭洗濯対応やストレッチ性付与など要望の高い機能から始める。19年にはブラックフォーマル向け濃染加工への対応も視野に入れ、テストを進めている。

 生産能力の向上も課題。中国拠点への研修で補修人員を30人体制まで強化。月産能力は約千反まで高まるが、キャパシティーにはまだ余力がある。当面は月産2千反を目指して「人材を中心としたソフト面の強化に取り組む」(登田晋次執行役員テキスタイル営業本部長)。

〈クラボウインターナショナル/素材提案型ビジネス深耕〉

 クラボウインターナショナルは「素材提案型ビジネス」を推進しており、その一環として既存の縫製品OEM事業に加えて生地の仕入れ、販売を本格化する。生地は主にグループのタイ・クラボウ(TKC)から調達し、協力関係にある中国縫製工場の欧米アパレル向けとして供給するという取り組み。縫製品事業でもグループ生地との連携を強めるなど素材提案型ビジネスを強化していく。

 同社は「真のインターナショナル」に向けて将来の輸出と内販拡大を狙っている。縫製品の輸出に先行して取り組み始めたのがTKCの生地を懇意にする中国縫製工場向けに供給するというもので、生地はストレッチや複合。内販拡大方針はユニフォーム縫製品で徐々に増えつつある。

 既存の縫製品事業でも素材提案型を標ぼう。TKCやクラボウ徳島工場の加工生地を積極的に採用し、メーカー系商社としての優位性を発揮していく。クラボウの熱中症リスク管理システムとそのためのスマート衣料「スマートフィット」や、再資源化プロジェクト「ループラス」、後染めで色落ちや色移りを防ぐデニム「アクアティック」などの活用、提案もグループ連携を図りながら強める。

〈一村産業/ベトナム生地生産拡大〉

 一村産業は2014年から社内で「ベトナムプロジェクト」を策定し、日本、中国、インドネシアに続く4極目の拠点整備を進めてきた。今年7月にはホーチミンに事務所を開設。この4極を有機的に組み合わせて最適生産・最適供給体制を追求するのが標ぼうする「グローバルテキスタイルコンバーター」だ。

 同社によるとベトナムでのビジネスは16年度が2億円で、17年度は4億円を見込む。中期経営計画最終年度の19年度には6億円、その先の20年度には10億円にまで引き上げる計画。テキスタイル生産の国内外比率(金額ベース)は、日本が15年度69%、16年度67%、17年度(見通し)64%と漸減傾向であるのに対し、海外は31%、33%、36%(見通し)と拡大。ただ、日本生産の絶対額は増えており、日本の産地を軽視するものではないことが分かる。15年度、16年度、17年度(見通し)の海外生産の内訳は、インドネシアが65%、58%、45%と縮小基調だが、ベトナムは10%、13%、21%と拡大基調。中国は10%、9%、10%とほぼ横ばいで、ベトナムの重要度が増している。

 ベトナムでの生地生産は中東民族衣装向けと対日ユニフォーム地で先行。中東向けはベトナムで手配した糸をインドネシアで生機にし、日本で染め加工し、ユニフォーム地はベトナムと中国で糸を手配して生機にし、日本で染め加工するというサプライチェーンだ。原糸、生機、染色加工の各工程で最適を見極めて供給するグローバルコンバーティングが進展しており、他用途にも広げていく。ベトナムでは、北陸産地を中心に国内で培ってきた技術サポートが奏功する格好で染め生地の展開が加速中。同国の協力工場は現在5軒で、うち2軒が染色加工場。

〈日新運輸/ニッシントランスコンソリデーター/ミャンマーから日本への輸送強化〉

 日立物流グループの日新運輸(大阪市此花区)とその子会社ニッシントランスコンソリデーター(同)はアジア繊維品物流で今後、「スマートマイロード」と題した検品・輸送サービスを強化する。グループネットワークを活用し効率的に東南アジア地域の陸路と海路をつないでリードタイムを短縮するもので、日系、中国系商社などで活用が既に進む。

 スマートマイロードは商標登録も申請中の新しい物流サービス。縫製地として脚光を浴びるミャンマーのグループ拠点、日新〈ヤンゴン〉で検品し、国境を越えてタイ・バンコクの港までトラックで輸送。バンコクで荷受け担当するのはグループ拠点の日立トランスポートシステム〈タイランド〉。バンコク港から海路に切り替え、中国や日本に荷を運ぶ。

 同社によるとヤンゴン港は現在非常に混雑しており、マレー半島とスマトラ島を隔てるマラッカ海峡を通過するのにも時間がかかる。同サービスは国境をまたいで陸路と海路を複合することでリードタイムの短縮につなげるもの。ヤンゴン港から海路のみで日本に荷を運ぶのに要する時間は通常約30日だが、同サービスでは半分の15日前後にまで短縮できる。海路のみよりもコストはやや高くなるが、空路よりははるかに安くなる。他方、同社は近年、検品業務の機械化、自動化を強化している。昨年導入した上海検品センターの人員はピーク時の300人から160人にまで減少。今後も各拠点で導入を計画する。中国、特に沿岸部では人員の確保が難しくなりつつある。人員確保難への対応と中長期的なコスト削減、付加価値化が機械化、自動化の狙い。具体的には手書き伝票を廃止して機械化するなどで、大きな成果を既に上げている。

〈大森廻漕店ベトナム/三国間混載物流始める〉

 大森廻漕店のベトナム法人、大森廻漕店ベトナムでは、中国からの生産移管に伴って縫製品の取り扱いが「安定的に増えている」(大森廻漕店ベトナムの菊谷周平社長)。主力の繊維製品に加え、工業製品や電子部品にも取り扱いを広げており、2016年にはハノイにも支店を設立した。

 一方、同国には日系物流企業の進出が増えており、外資系、現地系企業も含めて競争が激化。「価格競争も起きている状況」という。

 このため、顧客の利便性向上に貢献するサービスメニューの拡充が欠かせない。通常のフォワーディング業務に加えて強化しているのが保管業務と顧客の貨物を倉庫で集めてコンテナ化する混載輸送サービスで、保管業務は同社が倉庫を手配し、最終製品・原材料を保管。顧客の指示に基づいたピッキング対応のほか、生産地に応じて近隣に倉庫機能を提供できる利便性を強みにする。

 混載物流では6月には上海からホーチミンへ原材料を運ぶ同サービスも始めた。最終製品の日本向け輸送だけでなく、三国間の素材物流案件を取得する目的。大森廻漕店グループの中国拠点と連携して事業化した。海外拠点網強化の一環と位置付ける。

 ベトナムは欧州連合との自由貿易協定発効を控える。今後に向けて欧州向け物流案件の取得も狙う。案件ごとの物流品質を徹底し、顧客との信頼関係を深める。

〈ブラザーインターナショナル〈ベトナム〉/買い替え需要取り込む〉

 ブラザーインターナショナル〈ベトナム〉では、国内縫製工場の買い替え需要への対応と、サービス機能の強化を課題とする。

 2018年発効予定の欧州連合(EU)との自由貿易協定は新規工場立ち上げに期待できる要素だが、工業ミシン部の大岩幸シニアディレクターによると、同国の需要は現状、買い替え需要の方が目立つという。人件費の上昇から生産性の向上が重要性を増し、省人化につながる最新機種への問い合わせが多い状況で、特に1本針本縫いミシン「ネクシオS―7300A」への引き合いが高くなっている。

 布送り機構の電子化で送りピッチの数値や送り歯軌跡を簡単に設定でき、段部の目詰まり防止、針折れ防止など縫製品質や生産性の向上につながる特徴が評価される。ホーチミン以南エリアにある工場にも積極的に提案している。

 同時に技術サポートサービス体制も強化している。足元の需要動向ではユーザーの要望に早急に応えることが差別化につながる重要な要素。補給部品の供給体制を整えるほか、現地の技術スタッフの育成に取り組む。

 今後に向けては、さらなる省人化や生産性向上の要望に応えられるかが鍵とみる。IoT(モノのインターネット)やロボット技術の導入など、顧客ニーズを基盤とした開発の方向性をブラザーグループ全体で検討している。

〈AGMS/生産システムをプロデュース〉

 アパレルCADメーカーのAGMS(大阪市中央区)は親会社である上海和鷹機電科技と連携して生産システム全体の供給に力を入れる。

 近年、CADに加えて、全自動裁断機、採寸用3Dスキャナー、自動ハンガーシステム、物流倉庫システムといったアパレル生産に関するさまざまな機器を販売し、工場全体の生産性向上をサポートするビジネスモデルを確立している。

 中国では和鷹グループが中心になって販売する。このほど上海市にレディース衣料の自動化生産のモデル工場を完成させた。既にテスト生産が始まっており、世界最大規模の縫製機器展示会「中国国際縫製設備展覧会(CISMA)2017」に合わせ、数十人規模の見学会を開く。山東省の青島では紳士服の生産を自動化した工場、安徽省にもさまざまなアイテムの自動化工場の建設を進めている。

 AGMSは、日本に加え、カンボジア、スリランカ、バングラデシュでの販売拡大に力を入れる。川口真美常務によると「月2度程度で営業社員が出張しており案件数と売り上げ規模は着実に拡大している」。

 特に著しい成長を示しているのがバングラデシュだ。工場の一部の機器だけでなく全体の生産システムを受注することもあり、1件当たり数億円単位の受注を重ねているそうだ。近年では日系、欧米のアパレルに加えローカルアパレルからの案件も増加している。