不織布新書23秋(1)/高付加価値化がカギ/不織布の基本に立ち返り

2023年09月29日 (金曜日)

 不織布が落ち込んでいる。新型コロナウイルス禍が落ち着き需要回復が見込まれたが、関連企業が期待したほどではなかった。経済産業省の生産動態統計によると、2023年1~6月の不織布生産量は13万トン強。この水準で推移すると年間26~27万トンと2年連続で30万トンを割り込む可能性が高い。生産が落ち込む一方で、製造コストは上昇が続いており、不織布関連企業の採算は一層厳しさを増す。果たして、日本の不織布産業は再び成長に転じることができるのか。課題を探る。

〈23年1~6月生産も減少/年26~27万トンの水準に〉

 経済産業省の生産動態統計によると、22年の不織布生産量は前年比2・6%減の29万2491トンと、30万トンを割り込んだ。30万トン割れはリーマンショックの影響を受けた09年以来となる。22年は日本企業の海外生産量も初めて前年を割り込み、6・6%減の31万1千トンとなった。

 生産量の落ち込みは23年に入ってからも続く。23年1~6月は8・9%減の13万4832トン。この水準で推移すれば、5年連続の減産、2年連続の30万トン割れとなる。

 最も生産量が多いスパンボンド不織布(SB)・メルトブロー不織布(MB)は7・9%減。SBは紙おむつなど衛生材料の落ち込み、MBはマスク特需が終息したことが響く。

 その他も軒並みダウン。ケミカルボンド不織布7・4%減。サーマルボンド不織布11・5%減、ニードルパンチ不織布0・5%減、スパンレース不織布2・9%減、その他乾式不織布17・0%減、湿式不織布3・4%減と全製法が前年割れで推移する。

 衛生材料と並ぶ大型用途である自動車資材も生産台数の回復で期待されたが「確かに1~3月は戻ってきていた。しかし、4月以降は失速した」(短繊維不織布メーカー)状態だ。

 不織布輸入量も落ち込んでいる。財務省・通関統計によると、23年1~6月の長繊維不織布は前年比4・1%減の7万2468トン、短繊維不織布は0・7%減の5万936トン。それだけ日本の不織布需要が低調であることを物語る(輸出は長短含めて3・4%減の3万3854トン)。

〈コスト上昇も続く/商品開発で用途開拓へ〉

 需要が落ち込む一方で原燃料価格の上昇が続いている。不織布は原料比率が高く、製造設備における電気使用料も多いだけに、不織布メーカーは値上げに取り組んできた。「満額ではないものの、原料費の高騰分は転嫁してきたが、エネルギー費上昇分の転嫁は難航している」(短繊維不織布メーカー)と言う。さらに人件費や物流費の上昇などもあり、コスト高は今後も続く可能性が高い。

 それだけに採算的に厳しいビジネスは続けることが難しくなる。日本バイリーンが24年6月までに芯地や中わたなどの衣料副資材の国内販売を終了するのはその一例でもある。

 また、不織布の大型用途の一つである紙おむつでは花王が中国安徽省・合肥工場での生産を8月3日で終了した。同社の紙おむつ「メリーズ」は日本からの輸出、インバウンド需要も含め中国で一世を風靡(ふうび)しただけに象徴的な出来事でもある。

 つまり、量が減少し採算も厳しくなる中で、日本の不織布関連企業が再び成長に転じるためには、コストに見合う付加価値品にシフトするしかない。商品開発で用途開拓するという不織布の基本を徹底する。

 そこにしか、活路は今のところ見いだせそうにない。

〈日本不織布協会 会長 三木 雅人 氏/SC変化に合わせ転換を〉

――2022年、不織布生産量が30万トンを割り込みました。23年1~6月も前年割れとなっています。

 全用途が落ち込んでいます。新型コロナウイルス禍以前とは全く異なる世界になりました。より不確定で不安定な要素があり、従来のサプライチェーン(SC)が機能していません。国際的なモノ作りの流れが分断されています。例えば北米では中国品から北米品にシフトする傾向にあり、北米での不織布生産は増加しています。

――日本は生産量が落ち込む一方で、コスト上昇が続いています。

 原燃料高騰分を全て転嫁できていません。その面ではコストに見合う付加価値のある市場にシフトする必要があります。従来市場では戦えなくなっています。もちろん、供給責任を負っていますので、すぐに撤退することはできません。現状対応しながら付加価値品へシフトする。ただし、簡単ではありません。

――日本の不織布が再び成長に転じることはできるのでしょうか。

 経済がブロック化するなどSCが変化していますので、それに沿った形で事業構造を転換できれば成長は可能でしょうし、付加価値のある市場にシフトし、そこで成長することはできると考えています。

――ところで、アジア不織布産業総合展示会・会議「ANEX」が24年5月22~24日、台湾で初開催されます。

 台湾の不織布関連企業も危機感を持っています。彼らは中国に工場を持っているところが多く、コロナ対策による中国の都市封鎖で大きな影響を受けました。中国以外のSC構築に力を入れており、そのための情報交換という意味でもANEXの台湾初開催は大きな意味を持ちます。当協会では今回のANEXで初めて日本パビリオンを設けます。日本も置かれた状況は同じですし、情報交換や海外への提案などの重要性からも出展しやすいようにパビリオンを設けることにしました。苦しい時期こそ、出展してもらいチャンスをつかんでいただきたいという考えです。