不織布新書18秋(4)/旭化成の不織布・スパンボンド事業/新たな挑戦が始まる

2018年09月27日 (木曜日)

 旭化成の不織布事業は2018年4月から不織布事業部とスパンボンド事業部の2事業部体制となった。両事業部が連携しながら事業の広がりと深みを一段と追求する体制が整う。6月に東京で開催されたアジア不織布産業総合展示会・会議「ANEX2018」でも革新的なソリューションを提案し、注目された。さらに米国の自動車内装材大手であるセージ・オートモーティブ・インテリアズ(セージ社)の買収を決めたことで不織布・スパンボンド事業にとって新たな挑戦が始まる。

〈不織布事業部長 中嶋 康善 氏/事業、人材ともにグローバルに〉

 2018年度上半期(4~9月)も不織布事業部として堅調に推移しています。「ラムース」は車両用が計画通りに伸びていますし、「ベンリーゼ」もフェースマスク向け需要などが旺盛でフル生産が続いています。応用製品も安定しています。

 今後の課題は、さらなるグローバル展開です。既にラムースの販売は海外がメイン。グループに加わることになるセージ社の米国工場への販売も既に本格化しています。今後、さらなる連携を進めるために技術者も長期派遣するなどしてきました。ラムースは現在、3号機を増設中ですが、これを早期に立ち上げ、4号機増設についての検討も進めます。

 ベンリーゼや応用製品も海外市場の開拓を積極的に進めています。こうしたグローバルな事業展開を担える人財を育成することにも不織布事業部として取り組んでいます。

(談)

〈スパンボンド事業部長 三枚堂 和彦 氏/各用途をブラッシュアップ〉

 2018年度上半期(4~9月)は、ここまでは想定内の業績となっています。資材、衛材ともに堅調に推移し、供給タイト感も出てきました。タイの旭化成スパンボンド〈タイランド〉も原料高や為替の影響がありますが、7月以降、生販共に、順調に推移しています。

 今後の課題は、まずは現在の原料高騰をどのように乗り切るかでしょう。そして衛材用途はタイでの生産拡大を確実に実行しながら生産基盤を強化することです。衛材、資材いずれも各用途での商材をブラッシュアップすることが重要。そのために複合化などで機能を高めることにも取り組みます。

 このほど、セージ社がグループに加わることになりましたが、シナジー発揮に向けてスパンボンド事業部として、焦らずに長期的視点で取り組むことがポイントだと思っています。セージ社とコミュニケーションを深めながら、新しいアプリケーションを提案したいと思います。

(談)

《不織布事業部》

〈注目の「CMCベンリーゼ」/ベンリーゼ営業部〉

 フェースマスク用途が好調のキュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」だが、ベンリーゼ営業部はフェースマスクに続く柱となる用途の開拓に取り組む。

 好調が続くフェースマスク用途だが、最近ではマスクメーカーが米国市場の開拓に力を入れ始めた。このためベンリーゼ営業部では6月からニューヨークに駐在員を置き、市場開拓に取り組んでいる。そのほか、航空機用コンポジット材料のワイピング材などの販売拡大にも取り組む。

 メディカル用途も重点分野だ。既に「ハイゼガーゼ」などにより豊富な販売実績を持つが、新たに期待の商品として開発を進めているのがCMC(カルボシキルメチルセルロース)タイプのベンリーゼ。これは高吸液性があり吸液するとゲル化する。用途としては医療機器用部材を想定している。「今後はメディカル、ヘルスケア用途を拡大し、次の増設を検討する」(山下浩一ベンリーゼ営業部長)とする。

〈低環境負荷への評価高まる/ラムース営業部〉

 人工皮革「ラムース」の好調が続いている。ラムース営業部は2018年度上半期も計画通りの販売となり、フル生産が続く。特に自動車内装材で旺盛な需要が続く。ここに来て低環境負荷の原料と製法への注目も高まった。

 世界的に環境負荷への関心が高まり、需要家の間でも有機溶剤を忌避する動きが強まるが、「ラムースは早くから水系ウレタンやリサイクルポリエステルを原料に採用してきたことが強みとなっている」(関淳平ラムース営業部長)。

 独自の3層構造を生かしたフィルター用途も販売が拡大しており、原料や構成のアレンジでバリエーションを広げることができるのが強み。車載フィルターを中心に応用製品営業部とも連携しながら開発と提案を進める。

 増設中の3号機も19年度上半期中には稼働する予定。「増設分の供給先を確保することも今期の課題となる」。生産・供給基盤を強化しながら、低環境負荷などを切り口とした次世代商品の開発にも積極的に取り組む。

〈ナノフィルター提案強化/応用製品営業部〉

 応用製品営業部は、独自の超極細不織布を使ったフィルターシステム「ユーテック」を主力とする。2018年度の上半期(4~9月)は計画通りの進捗(しんちょく)を見せているが、燃料分野などが順調に推移した。今後はナノフィルターの販売強化などに取り組み、さらなる成長を図る。

 燃料分野(石油精製品の製造などでの油水分離)、化学品分野(石油化学品や誘導品生産プロセス中の油水分離)、部品洗浄分野(各種洗浄工程の油水分離)が主用途。手塚悟応用製品営業部長は「分離性能や長寿命、耐薬品性などの特性のほか、アプリケーションが好評を博す」と語る。

 これらの主用途は下半期(10月~19年3月)も底堅い動きを継続すると予想し、300ナノメートルサイズのメルトブロー不織布を使用した「ユーテックナノ」などの展開を強めて上積みを狙う。

 「ユーテックナノ」は電子材料製造分野を中心に攻勢をかける構えで、12月に開催される「高機能プラスチック展」に出展。そのほかではガソリン燃料用サクションフィルターの提案にも注力する。

《スパンボンド事業部》

〈独自設備の強み生かす/スパンボンド衛材営業部〉

 紙おむつ向けポリプロピレンスパンボンド不織布を主力とするスパンボンド衛材営業部は、独自設備を生かした商品開発で新たな需要の取り込みに力を入れる。

 2018年度上半期も紙おむつ向けの好調が続いている。日本から中国への紙おむつの輸出や越境電子商取引(EC)が堅調なことに加えて、東南アジア地域での紙おむつ需要拡大が続いていることでタイの旭化成スパンボンド〈タイランド〉での生産・販売も順調だった。

 一方、国内は大人用紙おむつが拡大傾向にあるものの、乳幼児用紙おむつの需要は、人口動態の点から漸減するとみられる。このため引き続き海外での需要をいかに取り込むかが事業のポイントとなる。東南アジアに加えてインド市場へのアプローチも進める。

 需要拡大が期待できる大人用紙おむつに向けた開発にも力を入れる。「大人用でも品質や機能へのニーズが一段と高まっている」(推井康正スパンボンド衛生材料営業部長)として、独自設備を生かしたポリマー・紡糸技術の活用で柔軟性や吸水性を高めたタイプの進化に取り組む。

〈自動車用途などで開発推進/スパンボンド資材営業部〉

 ポリエステルやナイロンなどさまざまな原料や製法によるスパンボンド(SB)不織布を強みとするスパンボンド資材営業部は、開発案件のさらなる推進に取り組む。

 2018年度上半期は、生活資材、産業資材ともに堅調な販売となった。特に生活資材は昨年の厳冬の影響でカイロや衣料用中わた押さえ材の受注が増加。産資用途も建材分野はややピークアウトの気配があるが、自動車分野の堅調が続いている。

 成型ポリエステルSB「スマッシュ」は家庭雑貨や飲料系で販売が堅調だった。ポリエステルSBとメルトブロー(MB)の複合不織布「プレシゼ」も引き合いが増えている。

 今後に関して「現在取り組んでいる開発案件をさらに進めることが重要になる」(石田哲也スパンボンド資材営業部長)。特に「プレシゼ」は吸音材など自動車関連での開発と提案に力を入れる。セージ社がグループに加わることも生かし、将来的には内装材分野でも新たな需要拡大を目指す。

〈“稼働の質”を高める/旭化成スパンボンド〈タイランド〉〉

 タイのポリプロピレンスパンボンド(PPSB)不織布製造子会社である旭化成スパンボンド〈タイランド〉は2018年度上半期(4~9月)もフル稼働が続いた。アジア地域で拡大する紙おむつ需要を確実に取り込むことに成功している。

 一方、ここに来て原料高騰による収益の圧迫が課題となる。このため今後の課題は一段の効率化・合理化による生産性の向上。「“稼働の質”を高め、工場としての体質を一段と強化すること」(及川恵介社長)が下半期以降のテーマとなる。既に多能工化への取り組みなどもスタートした。

 差別化商品の開発にも力を入れる。日本で開発された商品をいち早く導入することで、生産品種の高度化を進める。同社のPPSB製造ラインは独自設備であることも強みとして打ち出す。例えばトップシート向けに細繊度品や親水タイプなどを開発・提案する。