不織布新書18 ANEX2018開催記念号(6)/帝人フロンティア/商工一体の取り組みが加速

2018年06月05日 (火曜日)

 帝人フロンティアの不織布事業は2018年度から新たなスタートを切った。これまで2部門体制だった産業資材部門を今期から1本化し、これに合わせて原綿を除く不織布関連事業は機能資材本部が担う体制となる。戦略素材をコアに商工一体で“環境”“ヘルスケア”“安心・安全”に焦点を当てた領域へのソリューション提案が加速する。

〈環境、ヘルスケア、安心・安全に焦点〉

 帝人フロンティアの機能資材本部が特に重点領域と位置付けるのが「環境価値ソリューション」「ヘルスケア・ソリューション」「安心・安全ソリューション」。環境価値ソリューションではフィルターや、電気自動車(EV)シフトで需要拡大が期待されるバッテリーセパレーターなどがある。ヘルスケア・ソリューションはフェースマスクやメディカル用手袋などが注目を集める。安心・安全ソリューションでは水処理などがターゲットとなる。

 こうした領域に対して帝人フロンティアが有するナノファイバー「ナノフロント」、ポリトリメチレン・テレフタレート繊維「ソロテックス」、ポリエステルクッション材「エルク」、ポリエステルショートカットファイバー「テピルス」などコア素材による製品開発と提案が重点戦略となる。

 既に幾つかの成果も上がりつつある。例えば、ナノフロントを活用し、がん薬物治療の副作用で指紋が消失した患者に向けた生活アシスト手袋・指サック「ナノぴた」を浜松医科大学と共同開発。今年秋から販売を開始する。そのほかにも粉塵(ふんじん)・紛体の捕集性に優れ、耐久性も高い「ナノフロントバグフィルター」も開発した。

 独自性のあるコア素材をベースに原料から最終製品まで一貫した流れを持つ製品開発が進む。

〈グローバルな生産体制も構築〉

 昨年度に帝人からポリエステル繊維事業が移管されたことで、帝人フロンティアは原綿のグローバルな生産体制も構築した。ポリエステル事業の構造改革が完了したことによってポリエステル短繊維やエルク、ショートカットファイバーなどはタイ子会社であるテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)などが中心となる。これにナノファイバーやマイクロファイバーなどを生産する松山事業所(松山市)、さらにポリエステル短繊維を生産するインドネシアの協力企業も加わる。

 特にタイはポリエステル生産の中核拠点として研究開発機能も充実した。17年に帝人フロンティア・タイ・イノベーション研究室(タイランド)を開設。タイ国立科学技術開発庁とも連携してポリエステル繊維の原料であるポリマーの開発や紡糸、後加工技術などの研究に取り組む。

〈インタビュー/帝人フロンティア 産業資材部門 機能資材本部長 亀山 督 氏/社会に貢献するビジネスであり続ける〉

  ――今期から組織が再編され、産業資材分野は産業資材部門に一本化されました。

 産業資材部門は、帝人フロンティアで従来から産業資材関連のビジネスを担っていた部門と、17年に帝人から移管されたポリエステル繊維事業の産業資材分野を統合することで生まれました。今回の組織再編によって従来以上に商工一体の体制となります。その中でも機能資材本部は不織布などシート以降の素材と製品を扱っています。

  ――機能資材本部の基本方針は。

 機能資材本部として特にナノファイバー「ナノフロント」、ポリトリメチレン・テレフタレート繊維「ソロテックス」、ポリエステルクッション材「エルク」、ポリエステルショートカットファイバー「テピルス」といったコア素材を活用した開発と製品展開に重点的に取り組みます。例えばナノファイバーなどは従来にない素材ですから、用途開拓が重要になります。

 可能な限り最終製品に近い領域でビジネスを展開することもテーマ。そうすることでエンドユーザーの声を拾い上げた開発を進めることができます。そのためにも今回の部門統合のシナジーを発揮しなければなりません。もう一つは自家設備を活用したソリューション提案です。ポリエステル繊維事業が移管されたことで当社は原綿からシート、製品まで一貫で扱う体制が整いました。これを生かし、コンバーターや加工場とも連携しながら差別化を進めます。

 機能資材本部が提供するソリューションは、環境やヘルスケア、安心・安全といった領域が中心となります。こうしたソリューションを提供することで社会に貢献するビジネスであり続けることが最終的な目標となります。

 折りしも今年、帝人グループは創立100周年を迎えました。これを一区切りに、商工一体の取り組みで次の発展に向けて挑戦することになります。

〈ANEX2018総力を挙げた展示を〉

 帝人フロンティアは6日から8日まで開催されるアジア不織布産業総合展示会・会議「ANEX2018」で、同社として総力を挙げた展示を行う。

 ANEX2018では最終製品を中心に、フィルター、自動車、防災、ヘルスケアなど用途カテゴリーごとに提案を行うほか、ナノフロントやソロテックスといった戦略素材を活用した新しい不織布も披露する予定だ。

 帝人創立100周年となることを受けて、次の10年につながるような原料から製品まで全ての工程に向けた新しい商品を提案する。展示会を通じて、ユーザーとのコミュニケーションを進めることで、新しいソリューションを生み出すことを目指す。

〈機能資材第二部/バグフィルターなどで成果〉

 今回の組織再編で機能資材本部の傘下には機能資材第一部と機能資材第二部を置く体制となった。機能資材第一部は帝人グループ外からの原料調達も含めたコンバーティング機能を強みとし、機能資材第二部は自社のコア素材を活用したソリューション開発と提案に力を入れる。とりわけ機能資材第二部で力を入れているのがナノフロントを活用した開発と提案である。

 ナノフロントの応用で特に成果が上がりつつあるのがバグフィルター用途。紛体の集塵(しゅうじん)用途に強みがあり、セメントや鉄鋼関連で提案が進む。

 粉体の集塵にはフッ素膜を加工したバグフィルターが存在するが、使用中に膜が破損して集塵性が低下するなど課題がある。これに対してナノフロント不織布は膜と繊維の中間の性質を持つため、これを使用したバグフィルターは集塵性と耐久性の両立が可能となる。展示会や業界団体・学会のイベントに参加するなどプロモーションにも力を入れてきた。

 バグフィルターでは、アラミド繊維を使った耐熱タイプも開発中。こちらはセメントやアスファルト工場の耐熱性が必要な工程に向けた商品となる。こちらも帝人グループとして独自性のある素材を活用した開発と言えるだろう。

 コア素材としてもう一つ注目されるのがクッション材のエルク。生産をタイに移管したことで、さらなる増産が可能な体制も整った。環境負荷の観点から世界的にウレタンを忌避する動きが強まっていることから、ブラパッドや家具中材、ベッドのトッパーといった用途でグローバルに販売が拡大した。そのほか細繊度ポリエステルショートカットファイバーも世界シェア3割、国内シェアは7割に達すると推測されるコア素材。こちらもシートだけでなくフィルターやバッテリーセパレーターなど製品での拡販を進める。

 機能資材第二部の堀之内新一郎部長は「さらなる細繊度化や他のポリマー活用、機能わた、コンジュゲート繊維の開発も進め、第4、第5のコア素材を作っていく」と話す。吸音、断熱、電磁波シールドなといった用途での開発にも力を入れており、そのために各工程での技術革新に加え、素材調達でグループ外との連携も進める。