不織布新書18 ANEX2018開催記念号(4)/旭化成の不織布・スパンボンド事業/2事業部で新たなスタート

2018年06月05日 (火曜日)

 旭化成の繊維事業本部は2018年4月1日付で不織布事業を再編した。不織布事業部に加えて、新たにスパンボンド事業部を新設した。不織布事業の中でもスパンボンド事業を事業部に昇格させることで、これまで以上に市場の動きやユーザーのニーズに対応した迅速な意思決定が可能な体制となった。独自製法によるユニークな不織布と人工皮革を擁する不織布事業部と、ユーザーニーズに応えたスペシャリティーな商材をそろえるスパンボンド事業部を両輪とする新体制で旭化成の不織布・スパンボンド事業は新たなスタートを切った。

 旭化成の不織布事業はこれまで不織布事業部の傘下にスパンボンド資材営業部、スパンボンド衛材営業部、ラムース営業部、ベンリーゼ営業部、応用製品営業部があり、さらにタイにポリプロピレンスパンボンド製造子会社である旭化成スパンボンド〈タイランド〉を擁する体制だった。

 これまで積極的な設備投資と販売拡大を進めてきたことで、各営業部の業容も大きくなった。事業部が扱う不織布素材もポリエステルスパンボンドやポリプロピレンスパンボンドから人工皮革「ラムース」、キュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」など多岐にわたり、販売形態も原反から応用製品まで幅広い。このため、これまで以上に迅速な意思決定が必要との認識が高まっていた。

 これに対応して、今年4月1日付でスパンボンド事業部を新設し、その傘下にスパンボンド資材営業部、スパンボンド衛材営業部、そして旭化成スパンボンド〈タイランド〉を置く体制とした。スパンボンドを中心に、ユーザーニーズに応える商品開発と提案に力を入れる。

 一方、不織布事業部はラムース営業部、ベンリーゼ営業部ともに独自製法による素材を強みとする商品を世界に発信すると同時に応用製品営業部による多彩なソリューション提案に取り組むことになる。

〈不織布事業部/“唯一の商材”を強みに〉

 不織布事業部は、人工皮革「ラムース」、キュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」などユニークな素材を擁し、原反だけでなくさまざまな素材を活用した応用製品も取り扱うなど、その事業領域は広い。中嶋康善不織布事業部長は「旭化成独自の製法による製品を扱うのが不織布事業部の特徴。“世界で唯一”をキーワードに、競争力のある商品を世界に発信する」と話す。

 不織布事業部が扱う不織布素材は、いずれも同社独自の製法によるもの。例えばラムースは一般的な人工皮革と異なり、超極細短繊維と水系ポリウレタンから成る独自の3層構造によって作られている。ベンリーゼも世界で旭化成だけが量産するキュプラ長繊維不織布。「こうした独自性を発揮し、これまで進めてきたグローバル展開をさらに拡大・深掘りすることが不織布事業部の役割」となる。

 例えばラムース営業部は、これまで自動車内装材、インテリア、フィルターなどで販売を伸ばしてきた。特に自動車内装材は今後、欧米だけでなく中国などでもさらなる需要拡大が期待できる。フィルターも同じくフィルター製品を扱う応用製品営業部と連携することで拡大を目指す。IT機器の部材や外装材といったITアプリケーションも注目する。

 また、水系ポリウレタンを使用することによる低環境負荷や3層構造による設計のフレキシビリティーも開発の強み。ラムースは増設も決めた(19年度上半期稼働開始予定)。用途・需要開拓で増設の次のステージも視野に入れる。

 ベンリーゼ営業部も堅調な販売が続いている。近年ではフェースマスクといった新たな用途での注目度が高い。だが、フェースマスクなどコスメ分野はトレンドの影響を受けやすい。このため、さらなる用途とアプリケーションの開発に取り組む。特にメディカルやヘルスケアの分野では、天然由来や吸液性の高さなどキュプラ繊維の特徴を生かした開発と提案を進める。需要創出を進めながら、増設も検討課題となる。

 応用製品営業部も独自の超極細不織布を使ったフィルターシステム「ユーテック」を主力に販売を伸ばしてきた。特に燃料フィルター分野が拡大する。これまで国内向けが中心だったが、燃費向上や環境対応の観点から需要拡大が見込めることを生かし、新興国など海外市場の開拓を強化する。先進国では電気自動車(EV)化の波が押し寄せるが、新興国では依然としてガソリン、ディーゼルエンジン用フィルターなどの要望は高く、販売拡大が期待できる。

〈スパンボンド事業部/量だけでなくスペシャリティーを〉

 今期から新設されたスパンボンド事業部は、衛材向けポリプロピレン(PP)製とポリエステルやナイロン製のスパンボンド(SB)を多彩に取り扱うことで、旭化成の繊維事業本部における“スパンボンド・チーム”としての位置付けが明確になった。三枚堂和彦スパンボンド事業部長は「ユーザーのニーズに応じた商品開発と提案で、量的拡大だけでなくスペシャリティーな商品を作り込む姿勢が事業部の特徴」と話す。

 同社のSBは近年、スパンボンド衛材営業部が販売する衛材向けPPSBの拡大が進んだ。タイ子会社の旭化成スパンボンド〈タイランド〉の増設などで、紙おむつ用途を中心に旺盛な需要を取り込むことに成功している。

 一方、「競合他社と比べて、量的規模がけっして大きいわけではない」とも分析する。このためユーザーの細かなニーズにも対応しながら、引き続き世界的な需要拡大に対応することがPPSB事業の基本戦略となる。コモディティー化が進みやすい分野だけに、より効率的な生産体制を構築することで利益率の確保に取り組むことも大きなテーマとなる。

 一方、スパンボンド資材営業部はポリエステルだけでなくナイロンなど多彩な原料を使用したSBをそろえることが強み。やはりユーザーのニーズに応えながら、用途主体で販売の拡大を進めることが重要になる。産業資材と生活資材ともに、特に高付加価値が求められる用途の開拓と創出に重点的に取り組む。

 成型ポリエステルSB「スマッシュ」やポリエステルSBとメルトブローの複合不織布「プレシゼ」など独自性のある商材の拡販も重点課題となる。スマッシュは飲料関連で採用が進んでおり、プレシゼも乾燥剤包装などで実績を重ねてきた。いずれも特有の成型性や特殊構造による加工性などを武器に用途開拓を進める。各生産設備は、2017年以降ほぼフル稼働状態で、プレシゼ設備も17年後半からフル稼働となっている。

 衛材用とことなり、通常のSBは大口用途が少なく、細かな需要を積み重ねながら販売量を拡大することが欠かせない。三枚堂部長は「ここ数年は既存用途での販売が堅調だったことに助けられた面も大きい。だからこそ、既存用途を大切にしながら、新規用途の開拓を進めることが重要になる」と強調する。

 SB事業が事業部として一本立ちしたことにより「スパンボンド・チーム」としてのチームワークを発揮し、衛材、産業資材、生活資材ともに“世の中に役立つ”商品の供給を目指す。

〈ANEX2018/ユニークな素材を多彩に/重点3用途別に紹介〉

 旭化成は6日から8日まで東京ビッグサイトで開かれるアジア不織布産業総合展示会・会議「ANEX2018」に出展する。出展は今回で4回目。今回展では「スペシャリティ・カムズ・フロム・ユニークネス」をコンセプトに独自性のあるユニークな素材を多彩に紹介する。

 「車・エレクトロニクス」「フィルター」「ライフソリューション」の3用途ごとに展示することで同社の素材が多岐にわたる領域で利用されている点などをアピールする。旭化成の素材を使用したコンセプトカー「アクシー」も展示する。

 出展内容ではスパンボンド不織布「エルタス」、成形可能な不織布「スマッシュ」、独自技術による高機能ポリエステル不織布「プレシゼ」、人工皮革「ラムース」、キュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」、極細繊度メルトブロー不織布と柱状流不織布などを組み合わせたフィルター「ユーテック」などを用途ごとに紹介する。

 また、新規開発品としてポリケトン膜やセルロースナノファイバー(CNF)不織布なども披露する。さらに紙おむつなど衛材用途で不織布と組み合わせで実績豊富なスパンデックス「ロイカ」も展示することで、旭化成の素材によるソリューションの広がりなども打ち出す。